きみのとなりは春のにおい


教室で、ひよりはスマホと睨めっこしていた。

画面には、今日ようやく登録できた名前――【藤宮宙】。

メッセージ画面を開いては閉じ、閉じてはまた開いて、ため息をひとつ。

(……せっかく連絡先交換できたんだから)


(ちゃんとお礼くらいは……)


だけど、「ありがとう」の一言すら、指が止まってしまう。


送り方、言葉の温度、タイミング――


ちょっとしたことで、変に思われたらどうしよう。重たく感じないかな。
頭の中で、何度も何度もシミュレーションを繰り返す。

ようやく小さく息を吸い、ひよりは意を決した。


桜庭ひより
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桜庭です。
連絡先、教えてくれてありがとう。

これからよろしくお願いします。

次は寝癖、ちゃんと直しておくね(笑)

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送信ボタンを押した瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
画面を見るのが怖くて、思わずスマホを裏返して机に置く。


(やっちゃった……)


でも数秒後には、もう気になって手に取っていた。
画面には「既読」の文字。

ドキッとする間もなく、すぐに返信が届く。