きみのとなりは春のにおい


このところ、毎朝少しずつ言葉を交わすだけなのに、会えるだけで気持ちが変わっていく。


(……なんでだろう)


電車が揺れるたびに肩が軽く触れそうになる距離感。


思いの外その距離感を意識してしまっていることに驚く。


そんな空気の中、彼女が小さな声で話しかけてきた。


「……あのっ」


びっくりするほど真剣な目で見上げられる。

「……よかったら……連絡先、交換してもらえませんか?」


ドキッとした。

一瞬だけ、心臓が大きく跳ねた。


でも、それ以上に――嬉しかった。


「うん。俺も、聞こうかなって思ってた。……教えて?」


スマホを取り出して、彼女の画面に通知が届くように操作する。

ふと、指先がほんの少しだけ彼女の手に触れた。

(……あ)


その一瞬に、自分でも思っていた以上に心が反応していることに気づく。


軽い振動とともに、ひよりのスマホに表示された自分の名前――【藤宮宙】。


それを見つめる彼女の横顔は、照れているけれどどこか嬉しそうで。


――それが、なんだかすごく愛おしく思えた。