朝の電車。 少し冷たい風が頬をかすめる、初夏の始まりの朝だった。 いつもの車両の、窓際に立ちながら、ぼんやりと流れる景色を眺めている。 通学時間は、以前まではただの日常の一部に過ぎなかった。 でも、今は―― (……今日も来るかな) 無意識に目がホームのほうへ向いていた。 友愛高校の制服を着た生徒たちが何人か見える中で、彼女がいた。 改札から駆け込んでくる、小柄な女の子。 制服の襟が少しずれていて、髪の毛がほんの少し跳ねている。 「……走ってきた?」 思わず口の端がゆるんだ。