きみのとなりは春のにおい

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駅に着いた瞬間、ちょうど電車がホームに滑り込んでくるのが見えた。



息を切らしながら階段を駆け上がり、最後尾の車両へと飛び乗る。

(間に合った!)

混雑に押されながら、彼を探す目が必死に宙の姿を捉えた。

──いた。

窓のそばに立つ藤宮宙の横顔を見て、安心と緊張が同時に胸を締め付ける。


(よかった……今日も会えた)

彼がこちらに気づき、目を細めて優しく微笑んだ。


「おはよう。……なんか、すごい急いで来た?」

「う、うん……ちょっと寝坊しちゃって……」

視線を逸らし、前髪の下で顔を隠すように小さく答えるひより。

「なんか……寝癖、ついてるよ」

「えっ……!」

頬が一気に熱くなる。

鏡も見ずに家を飛び出したことを猛烈に後悔した瞬間だった。


でも──宙はからかうことなく、ただ優しく笑っていた。