きみのとなりは春のにおい


「……うそでしょ」

時計の針が指す時間を見て、ひよりは思わず声を漏らした。


目覚まし時計は確かに鳴っていた。
でも、止めた記憶がまったくない。
制服はまだ着ていないし、髪もぐしゃぐしゃのまま。


いつもの電車が来るまで、あと30分――。

(間に合わない……!)

けれど、今日はどうしても、いつもの電車に乗りたかった。


昨日、まゆとしおりに背中を押されて、心に決めたのだ。

(今日こそ、ちゃんと連絡先を聞こうって……)


慌てて着替えを済ませ、ぐちゃぐちゃの髪を気にしながらも鞄を掴んで家を飛び出した。