きみのとなりは春のにおい

「わ〜〜〜いいなぁ! そういう話聞くと、こっちまで恋したくなる!」

「よし! 私たちが全力で応援するからね。まずは……連絡先ゲットだ!」

「れ、連絡先!? いやいや、まだ早いっていうか……どう聞けばいいのかも……」

「“よかったら連絡先、教えてください”って、そのまま言えばいいんだよ。きっと教えてくれるって、そんなに優しい人ならさ!」

「学校違うし、ライバルも多いかもだけど、ひよりが後悔しないように!」


ふたりの明るい笑顔に、ひよりの胸がじんわりあたたかくなる。


──ああ、なんて心強いんだろう。


こんなふうに、まっすぐ背中を押してくれる友達がいること。それがただただ嬉しくて、ひよりは小さく笑った。


少しだけ、勇気がわいてくる。


***


その夜。
ひよりは眠る前に、そっと鏡の前に立った。

(……ちゃんと、言えるかな)

「よかったら……連絡先、教えてください……」


小さく声に出してみる。鏡の中の自分が、少し照れくさそうに口元を動かした。


そのときふと、宙くんがあの笑顔で「いいよ」って言ってくれる姿が頭に浮かんで──顔が一気に熱くなる。

(む、無理……)


でも。

明日の朝も、あの電車に乗ろう。
胸の奥にぽっと灯った気持ちが、静かに、でもたしかに、ひよりを動かしていた。