きみのとなりは春のにおい

「……ちょっとだけ、気になってる人は、いるかも」

「えええ!? 出た! 恋バナきた!」

「誰誰? 名前は? クラスの人? 私たち知ってる人!?」


盛り上がるふたりに押されるように、ひよりは少しだけ頬を赤く染めて、ぽつりと答えた。


「藤宮宙くんって言って……星条学園の一年生。朝の電車でよく見かける人なんだけど、入学式の日と、この前も……助けてくれたの」


あのときの声が、ふと思い出される。 


「大丈夫?」


そう言って差し出してくれた水のペットボトル。低くて優しい声と、少し照れたような笑顔。


 そのすべてが、ひよりの胸に、やわらかく灯っていた。


「同い年なんだけど、落ち着いてて、大人っぽくて……優しくて」


 気づけば、自然と笑っていた。そのことに自分で気づいて、ひよりは慌てて目線を落とす。


「星条って、あの超進学校!? すごい……しかも助けてくれたとか、なにそれ運命じゃん!」

「え、もう付き合えば? 毎朝会ってるんでしょ? 絶対、向こうもひよりのこと気になってるって!」

「ち、ちがうよ! そんなのじゃなくて……名前を知って、たまにちょっと話すくらいで……」

「でもさ、その“たまに話す”が一番きゅんとくるんだよね?」

しおりの言葉に、ひよりはこくりとうなずいた。


「……うん。電車で顔が見えるだけで、ちょっと元気になるの。……こんなふうに誰かを“気になる”って思うの、初めてかもしれない」

口にしてみて、ようやく自分の気持ちがちゃんと形になる。


これは──たぶん、恋。