きみのとなりは春のにおい



 
次の駅のアナウンスが流れる。


「次で降りるね」

「……うん」


 
ひよりはドアの方へ視線を向けた。

 
照れくさくて、笑ってる顔を見られたくなくて。


「明日の朝も、今日と同じ電車?」

「うん。……起きられたら、だけど」

「ふはっ。俺も。じゃあ、また明日」

「……うん。また明日」


 
ドアが開き、宙が軽く手を振る。
 

その手が、最後まで視界に残っていた。

 
電車が動き出し、彼の姿がゆっくり遠ざかっていく。


 
それでも――


 
「また明日ね」って言葉だけが、胸の奥で何度も響いていた。


 
まるで夢みたいな出来事。

 
昨日までただ遠くから見ていた人に、「また明日」って言えるなんて。