きみのとなりは春のにおい

***


放課後。


帰り道の途中、ふと、ひよりは決めた。


(朝と同じ電車に乗ってみようかな……)


会えるわけない、そんな都合のいい偶然なんて。

だけど、心のどこかで期待していた。


午後五時すぎ。


朝よりも少し空いた車内。


ひよりは、今朝と同じ場所――窓際の、ドアから少し離れた位置に立つ。


 
電車が止まり、乗り換えの人波が動いた、そのとき。


「……桜庭さん?」

 
声がして、胸が跳ねる。
 

顔を向けると、そこに――藤宮宙がいた。


「え……あっ……!」

 
言葉が詰まるひよりに、彼は優しく微笑んだ。


「今朝のこと、怖かったでしょ? 大丈夫だった?」


その優しい気遣いに、胸がきゅっと締め付けられる。

「……はい。あの…会えると思ってなかったからびっくりしちゃって……」

「俺も。偶然……って言うとウソっぽいけど、ほんと偶然」

 
そう言って、宙は照れくさそうに頭をかいた。