いつもはがらんとしている街の通りは今日は多くの人で賑わっていた。
 人混みの一番遠くに色とりどりの風船が浮いている。
 好奇心には勝てなかった。人々をかき分け、風船を目指す。
 お母さんに頼まれたお使いの袋も揉みくちゃになるのも気にせず前に進む。そして一番前に出た時に、息を飲んだ。
「あら!可愛い女の子!サーカスに、興味があるの?」
「こら、リリ。怯えてるだろ。君、怖がらなくていいからね」

 言葉が出なかった。

 私を見つめる「ソレ」は普通の人間と異なるカタチ。
 一つの身体に、二つの、頭。
 吸い込まれてしまいそうな真っ赤な四つの瞳に見据えられて足が竦む。

「あ、あのう……」
「びっくりさせちゃったね!?それじゃ!お詫びに風船あげちゃう!」

 私が一番欲しかった赤い風船だ。

「キキがムスッとするから怖がられるでしょー?」
「リリがグイグイ行き過ぎてるの」

 二人?は真っ黒の髪の毛に赤い瞳。
 顎の下でまっすぐ綺麗に切り揃えられているけどくせ毛で所々跳ねていて、それを押え付けるように赤いカチューシャを付けているのがリリ。
 リリと同じようなくせ毛なのか、それを活かしたベリーショートに赤いぽんぽんの鼻をつけているのがキキ。
 二人の顔をよく見ると双子のようにソックリだ。

「じゃあ君!良かったらサーカスに来てくれない?」
「さ、サーカス?」
「うん!ボクみたいな人が楽しいショーをするの!」
 
 リリは私に顔を合わせてくれて、キキは周りの人に風船とカードを渡している。

「今日、日が沈んだ2時間後に始まるからね!来る時はこのカードを持ってきてね」

 大きく「サーカスがやってきた!」と書かれたカードを1枚お使いの袋に入れてくれた。

「あの!お金は……?」
「お駄賃は、君の気持ちのほんの少しだけ」

 リリは人差し指を唇に当て、いたずらっぽく笑った。

「わかった!お姉さん、お兄さん、ありがとう」
「いえいえ!サーカスのテントの中で待ってるね」
「夜道は危ないから気をつけて来るんだよ」

 二人はニッコリと笑いかけて、また周りの人に向き合った。
 見てみたいな、サーカス。
 きっと、見た事も、想像した事もない世界が見れる気がする。もう、怖くない。
 行こう、サーカスへ。