鏡の中に落ちた瞬間、空気が変わった。 色が薄く、音が遠く、世界がまるで夢の中のようだった。

「え…なんで…どこ!?ここどこなの!?いやだ!!」

美奈は叫びながら、足元を蹴り、手を振り回した。

でも、空気は重く、動けば動くほど、水の中に沈んでいくようだった。

「いやだ!出して!なぎちゃん!!」

なぎは、静かに美奈のそばに立っていた。

その瞳は、もう優しさを持っていなかった。

「美奈さん…落ち着いて。すぐに、楽になりますよ」

「やだ…やだやだやだっ!!」

なぎがそっと手を伸ばす。

その指先が、美奈の額に触れた瞬間——

ふわりと、意識が揺れた。

視界がぼやけ、 まぶたが重くなる。

体が沈む。

「だめ、、いやだ、、帰りたい」

と、叫んでみるけど、声は震え、涙が頬を伝う。

美奈は、心の中で何度も唱えた。

現実に戻るための、最後の希望。

「大丈夫…眠れば…帰れる…」

その言葉は、もう声にならなかった。

ただ、心の奥で、必死に繰り返していた。

そのとき、美奈は思った。

——大丈夫。眠れば帰れる。

——絶対。これは夢。冗談。

——起きたら、教室に戻ってる。

——なぎちゃんが、笑ってる。

——大丈夫。大丈夫。大丈夫。

その言葉を、心の中で何度も繰り返しながら—— 美奈は、静かに眠りへと落ちていった。