仲良くなってから、何週間かが過ぎた。

昼休みには一緒に本を読み、帰り道には桜並木を歩く。

なぎの話す昔の遊びや、古い歌の話も、美奈には新鮮で楽しかった。

ある日の放課後、図書室で並んで本を読んでいたとき、なぎがふとつぶやいた。

「美奈さんは、静かな場所はお好きですか?」

「うん、好きだよ。家でもよく一人で本読んでるし」

なぎは、少しだけ微笑んでから言った。

「よろしければ、今度うちにいらっしゃいませんか?静かで、落ち着く場所です」

「えっ、いいの?行ってみたい!」

「では、明日。放課後に、校門でお待ちしています」

次の日、なぎは約束通り校門で待っていた。

制服の上に、レトロなカーディガンを羽織っていて、どこか昭和の映画のヒロインみたいだった。

「こちらです。少し歩きますが…道中も、風情がありますよ」

美奈は笑ってうなずいた。

歩きながら、なぎは昔の商店街の話や、古い喫茶店のことを話してくれた。

そして、たどり着いたのは、静かな住宅街の奥にある、古びた洋館。

木の扉に、すりガラスの窓。

門の前には、手入れされた椿の花が咲いていた。

「わぁ…なんか、映画に出てきそうな家だね」

「ありがとうございます。祖母の代から、ずっとこのままです」

玄関を開けると、ふわりと懐かしいような香りがした。

畳の部屋と、古い鏡台。壁には、昭和のポスターが飾られていた。

「どうぞ、こちらへ。お茶を淹れますね」

なぎが立ち上がると、奥の部屋の鏡が、すこしだけ揺れたような気がした。

でも、美奈は気づかなかった。

まだ——この家の“本当の姿”を知らない