鏡の中の嘘

「この制服……月白女学院のものかもしれませんわ」

美代が写真を見つめながら、そっとつぶやいた。

その声には、どこか懐かしさと、かすかな震えが混ざっていた。

「月白女学院……?」沙耶が首をかしげる。

「ええ。わたくしの友達が通っていた学校ですの。校章の形、間違いありませんわ」

「でも、それって……」沙耶がガラケーを開きながら言った。

「たしか、平成の初めに廃校になってるはず」

「えっ、じゃあもう何も残ってないの?」

美奈が驚いたように言う。

「うん。調べたことあるけど、資料もほとんど残ってないって……」

一瞬、空気が沈んだ。

けれど、美奈がふと、鏡の扉を見つめて言った。

「……ねえ、この扉の鍵穴、なんか見覚えない?」

沙耶が近づいて、じっと見つめる。

「これ……写真の中で、夜凪がつけてたネックレスと同じ形じゃない?」

「ほんとだ……!」

美奈が目を見開いた。

「じゃあ、あのネックレスが鍵……?」

「もしかしたら、さっきの部屋にあるかもしれませんわ」美代が言った。

3人は急いで夜凪の部屋へと戻った。

静まり返った空間に、ろうそくの灯りが揺れる。

「……これ、見て」沙耶が机の上の本を指さした。

古びた表紙には、金色の文字でこう書かれていた。

『月白女学院 校訓集』

ページをめくると、そこには美しい筆致でこう記されていた。

「“誠をもって、友と結び、心を映す鏡となれ”……」

沙耶がその言葉を見つめたまま、はっと息をのんだ。

「これ……どこかで見たことある……あっ!」

沙耶が顔を上げた。

「この学校、どこかの高校と合併してたんだよ!それで、今は、月白女子高校になってるはず。
たしか、校訓の一部が残ってるって聞いたことある!」

「月白女子高校……?」美奈が目を丸くする。

「うん、……」

美奈は、ぽつりとつぶやいた。

「月白女子高校……最近共学になって月白高校に変わってる。」

沈黙が落ちた。

3人は顔を見合わせた。

「それに、そこ……私が通ってるとこ!」

美奈の声が、静かな部屋に響いた。

沙耶と美代が、驚いたように美奈を見つめる。

「月白高校……まさか、そんな歴史があったなんて……」

美代がそっと本を撫でながら言った。

「この校訓……“誠をもって、友と結び、心を映す鏡となれ”……夜凪が、かつて通っていた頃のものかもしれませんわ」

「じゃあ、夜凪って……この学校の卒業生?」沙耶がつぶやく。

「もしかしたら、写真に写ってた“ともだち”も、みんな月白女学院の生徒だったのかも……」

美奈が言った。

その瞬間、部屋の空気がふっと揺れた。

鏡の扉が、かすかにきしむ音を立てる。

「……呼ばれてる?」沙耶が言った。

「鍵を探しましょう。あのネックレスが、きっと扉を開く鍵ですわ」美代が立ち上がる。

3人は再び夜凪の部屋を探し始めた。

棚の奥、引き出しの中、古い箱の中――

そして、美奈が見つけた。

「……あった!」

小さな銀のネックレス。月の形をしたペンダントが、静かに光を放っていた。

「これ……写真の夜凪がつけてたやつだよね?」

「ええ、間違いありませんわ」

美奈がそっとそれを手に取ると、鏡の扉が、ゆっくりと、音もなく開き始めた。

その向こうには――

霧に包まれた、古い校舎のような風景が広がっていた。

「ここって……月白女学院……?」

「夜凪の記憶の中の世界かも……」

沙耶が言った。

「行こう。夜凪の“本当の気持ち”を、確かめに」

美奈が一歩、霧の中へと踏み出した。