鏡の中の嘘

沙耶が、ふと思い出したように口を開いた。

「……あのさ、この前、一人でいたとき、夜凪が部屋に入っていくのが見えたの。 もしかしたら、そこに何かあるかもしれない」

美奈が身を乗り出す。

「え、それってどこなの?」

沙耶は、少し考え込んでから、近くに落ちていた紙切れを拾い、ざっと扉の模様を描いた。

「こんな感じの模様だった気がする。あんまり構造が分かってなかった時だったから、微妙なんだけど……」

美代が、絵を見てすぐに反応した。

「あっ、わたくし、存じておりますわ。 階段を二つ降りて、魔法陣のような床がある場所の突き当たりだと、、」

美奈が目を輝かせる。

「さすが美代!!」

沙耶が、少し不安そうに言った。

「そこ、行く?」

美奈が、手鏡を握りしめながら答える。

「でも、相当危なそうだよね……」

美代が、静かにうなずく。

「けれど、早く出たいのも事実ですわ」

沙耶が、決意を込めて言った。

「……うん。行こう」

3人は、ろうそくの火を頼りに、階段を降りていった。

魔法陣のような模様が床に広がる部屋の突き当たり——そこに、扉があった。

そして、その部屋の中には——

夜凪が立っていた。

美奈が、息をのむ。

「夜凪だ……」

沙耶が、そっと囁く。

「見つかったらやばい。ここで見ておこう」

3人は、物陰にしゃがみこみ、半開きの扉の隙間から中を覗いた。

夜凪は、分厚い本を開き、何かを取り出した。

それは、一枚の写真だった。

美奈が、目を凝らして言った。

「なんか、写真みたいなのを見てる」

沙耶が、そっと問いかける。

「写真?」

「うん。でも、遠すぎて見えない……」

夜凪は、写真をじっと見つめたまま、何も言わず、ただ静かに立っていた。

その背中には、どこか寂しげな気配が漂っていた——。

夜凪は、写真をそっと分厚い本に挟みなおすと、静かに部屋を後にした。

扉が閉まる音が、広間に響く。

3人は、しばらく息をひそめていたが、足音が完全に遠ざかったのを確認すると、そっと立ち上がった。

美奈が、扉の隙間から中をのぞく。

「……行ったね。今なら、探せる」

沙耶が、周囲を見渡す。

「じゃあ、誰か見張りしとこう。廊下から戻ってきたら終わりだし」

美代が、静かにうなずいた。

「わたくしが、見張りをいたしますわ。 何かあれば、すぐに合図いたします」

美奈と沙耶は、そっと部屋の中へ。

分厚い本が置かれていた机の前に立つ。

沙耶が、少し苦笑いしながらつぶやいた。

「……なんか、泥棒みたいな気分」

美奈が、くすっと笑う。

「だね。でも、これは“脱出のための調査”ってことで」

机の上には、古い本、紙束、そして夜凪が見ていたと思われる写真が挟まれた本が置かれていた。

沙耶が、そっとその本を開く。

「……これだ。夜凪が見てたやつ」

美奈が、ページをめくる手を止める。

沙耶が、分厚い本の間から写真を取り出した。

ろうそくの火に照らされたその写真には——

5人の少女が並んで写っていた。

美奈が、目を凝らしてつぶやく。

「あ……これ、夜凪だ」

沙耶が、隣の子を指さす。

「え……これ、私にそっくり」

美奈が、次々に顔を見比べる。

「で……あ、これは私……? 美代? それと……」

美代が、最後の子を見て、静かにうなずいた。

「……千代に、似ておりますわ」

3人は、しばらく黙って写真を見つめていた。

美奈が、ぽつりと言った。

「でも、服も違うし、うちらは、時代もバラバラだよね」

「だから、別の人っていうことか、、、」

沙耶が、写真の裏をそっとめくる。

そこには、かすれた文字で、ただ一言——

「ともだち」

誰も、すぐには言葉を返せなかった。

ただ、写真の中の5人が、今の自分たちに重なって見える。

それが、偶然なのか、必然なのか—— まだ、何もわからなかった。