「美代!美代!」

美奈の声が、洋館の静けさを揺らした。

廊下の奥から、美代が顔を出す。

「なに?そんなに慌てて、どうしたの?」

その声は、すっかり現代の言葉に馴染んでいた。

けれど、姿勢や仕草には、どこか品のある言葉が残っている。

「これ……この前言ってた女の子のやつじゃないかと思って……」

美奈は、そっと紙切れを差し出した。

美代は、受け取って、ゆっくりと広げた。

目を通した瞬間——

「……えっ……」

美代の指が止まり、瞳が揺れた。

口元がかすかに震える。

「これは……千代が……」

その言葉は、ふとした瞬間に戻った、あの頃の口調だった。

「千代ちゃんっていうのね……」

美奈は、そっと隣に座った。

美代は、紙を胸に抱きしめるようにして、静かに涙をこぼした。

ぽろぽろと、音もなく落ちる涙。

「千代は……わたくしの、大切な友人でした。いつも、わたくしのことを気にかけてくれて……でも、怖がりで……」

言葉が、涙に混ざって途切れた。

美代は、涙をぬぐいながら、少しだけ笑った。

「でも……ありがとう、美奈。ほんとに……ありがとう」

その声には、優しさと、温もりが、そっと混じり合っていた。