至上最幸の恋

 どこかへ行かれるのかしら。
 声をかけようか迷っていると、振り返った磯崎さんと目が合った。

「エリサちゃん、無事に着いたんだね。お疲れ様」
「磯崎さんも、お疲れ様です」

 磯崎さんたちは、撮影準備のため、別便でひと足先に到着していた。機材や衣装がたくさんあるから、移動も大変よね。

 だけど彼は、どの現場でも、疲れた表情を一切見せない。本当にプロ意識が高い方だわ。

「長時間の移動で疲れたんじゃない?」
「大丈夫ですわ。久しぶりのウィーンなので、ウキウキしています」
「そういえばここは、エリサちゃんが瑛士君と出会った場所でもあるんだっけ」

 瑛士君、ですって。私の知らない間に、おふたりは親しくなっていたのね。なんだか嬉しい。

「はい。目の前の市民公園で、初めてお会いしました」
「思い出深い場所なんだね」

 磯崎さんが目を細めた。

 あの日のことは、昨日のことのように覚えている。
 課題の曲が思うように弾けなくて、周りとの差ばかりが目について……もう日本へ帰りたいと思いながら、涙をこらえて公園を歩いていた。

 そのとき、ベンチに座って絵を描いている瑛士さんを見つけたの。

 離れたところからでも分かるくらい、真っすぐな眼差し。とても繊細な手つき。あまりに美しくて、しばらく立ち尽くしてしまった。