至上最幸の恋

「帰ったら、糸島土産を持って行くよ」
「そうか。気をつけて帰ってこい」

 たったそれだけの会話。
 それでも、心が温かくなった。

 多くの言葉を交わさずとも、気持ちを伝える方法はいくらでもある。糸島の旅が、そのことを教えてくれた。

 これからはもっと、父と心を通わせることができる気がする。そう思うと、鎌倉へ行くのが楽しみだ。

 しかし東京に戻ると、依頼されていた絵の確認や桂木さんとの打ち合わせに追われてしまった。

 父への土産に買った干物は、テーブルの端に置いたまま。
 包みを目にするたび、早く渡さなければと思った。だが日持ちはするし、今度の日曜日にでも持って行こう。

 急ぐ必要はない。そう思っていた。

 忙しさにかまけて、オレは忘れてしまっていたんだ。
 当たり前のように続いていくと思っていたものほど、あまりにもあっけなく失われることがあるということを。

 旅から帰ってきて、10日ほど経ったころ。自宅で制作をしていると、電話が鳴った。
 筆を置き、受話器を取る。名乗ったのは、父が勤める製薬会社の社員だった。

「……分かりました。すぐに伺います」

 反射的に答えたが、頭の中は真っ白だった。

 父が、倒れた。