至上最幸の恋

 床の間には、掛け軸ではなく絵が飾られていた。東山魁夷の「行く秋」だ。

「東山魁夷が、お好きなんですか?」

 案内してくれた睦美さんに尋ねると、満面の笑みで頷いた。

「亡くなった父が、日本画鑑賞を趣味にしとったんよ。特に東山魁夷が好きで、画集もたくさん持っとって。私も小さいころから、よう見とったから。なんとなく落ち着くっちゃんね」
「オレが日本画家を志したのも、東山魁夷の影響なんです」
「あら、そうなん!」

 縁というものは、本当に不思議だ。知らない土地の定食屋で、たまたま隣に座っただけだというのに。
 
 おそらく信さんは、誰に対しても親切な人だと思う。しかしオレに対してここまでしてくれるのは、なにか通じるものを感じているからだろうか。

 開け放たれた障子の向こうから、玄関の開く音が聞こえた。信さんの長男が帰宅したようだ。
 睦美さんは「ちょうどよかった」と笑って夕食の支度に戻り、ほどなくして長谷川家の食卓に混ぜてもらうことになった。

「へぇ。拓也君は、将来お父さんと同じ道に進むのか」
「はい。小さいころから、建築が好きなんです」

 長男の拓也君は、こちらの話にきちんと目を向けて頷く、素直な青年だった。
 近くの国立大学で建築学を学んでいるらしく、卒業後は信さんの工務店で働くことを希望しているそうだ。