至上最幸の恋

 広い玄関に入ると、下駄箱の上に飾られた絵が目に入った。
 深緑の針葉樹の森と、静かな湖を描いた風景画。複製画だが、この静かな青は、間違いない。

「東山魁夷……」
「さすが、よう知っとるな」

 思わず呟くと、信さんが丁寧に靴を脱ぎながら言った。

「家内は日本画が好きなんよ」
「そうだったんですか」
「おう。瑛士君のことを話したら、大喜びでな。おおい、帰ったぞぉ」

 奥からパタパタと足音が聞こえてくる。そして、エプロン姿のふくよかな女性が笑顔で駆け寄ってきた。
 
「おかえりなさい!」
「ただいま。ほれ、電話で話した日本画家の」
「浅尾瑛士です。突然お邪魔して……」
「まぁ~! 男前!」

 ……やたら声が大きい。夫婦とは、こうも似るものなのか。
 
「な? おいが言うた通り、男前やろ?」
「ええ、本当に! あ、長谷川の妻の睦美です。さ、浅尾さん、こちらへどうぞ」

 少し会話をしただけで、穏やかで優しい雰囲気が伝わってくる。信さんも睦美さんも、人を自然に懐へ入れてしまう人なのだろう。

 家に上がらせてもらい、奥の客間へと案内された。
 かなり広い平屋だ。信さんによると、老後のことを考えて二階建てにはしなかったらしい。これだけの敷地があるからできることだな。

 10畳ほどの客間は、まるで旅館のようなしつらえだった。