至上最幸の恋

 信さんは、事務所から車で15分ほどの戸建てに、妻と大学生の長男と暮らしているそうだ。
 結婚した長女は家を出ているが、すぐ近くに住んでいるらしい。その夫も、信さんの会社で働いているという。

「瑛士君は、結婚しとらんとね? あ、次の信号を左な」
「いまは、していません」
「いまは?」
「実はつい最近、離婚したばかりで」

 余計なことを言ったかもしれない。
 そう思ったが、信さんは特に気にした様子もなく、大きく頷いた。

「そうね。瑛士君、まだ20代やろ?」
「今年で30です」
「若い若い! 男としても画家としても、まだまだこれからやないね!」

 信さんの笑い声を聞くと、妙に気持ちがすっきりとする。重たい感情をすべて吹き飛ばしてしまうくらいの豪快さが、いまのオレには心地よかった。

 しばらくすると、筑前前原駅が見えてきた。その先の住宅地にある、周囲よりひと回り大きな戸建てが、信さんの自宅らしい。

 古い木造の住宅も多い中で、信さんの家は比較的新しく見える。

「綺麗な家ですね」
「そうやろ? リフォームして、まだ1年やけんな。おいが設計したったい」
「もしかして、事務所も信さんの設計ですか?」
「おう」

 モダンでありながら、クラシカルな雰囲気もある。人懐っこく豪快な印象とは裏腹に、信さんはかなり洗練されたセンスの持ち主らしい。