至上最幸の恋

 ふと目を落とすと、左手首で、父からもらった腕時計が静かに動いていた。使い始めたばかりだというのに、不思議とずっと昔から身につけていたもののように馴染んでいる。

 なんとなく触れてみると、ひんやりとした感触が伝わってきた。

 父は、これまでどのような景色を見てきたのだろう。もしかすると、オレを育てるので精一杯だったかもしれない。

 もう十分すぎるほど頑張ってくれた。仕事はほどほどにして、自分の時間も大切にしてほしい。読書と囲碁くらいしか趣味がない人だから、今度温泉にでも連れ出してみるか。

 腕時計から手を離し、改めて景色を見渡したあと、写真を撮った。しかし座ってゆっくりとスケッチできる場所ではないので、その場で少しだけ鉛筆を走らせた。

 それから近くの黒磯海岸にも寄って、また撮影とスケッチをしていると、海が橙色に染まり始めた。思わず鉛筆を持つ手を止めて、落陽を見つめる。

 ふいに涙がこみ上げてきた。
 オレはなぜ、ひとりでこんなところにいるのだろう。突然、どうしようもない寂しさが襲ってきた。

 まるで、世界にひとりだけ取り残された気分だ。

 律の顔が浮かぶ。言えなかった言葉、してやれなかったことばかりが脳裏に去来する。
 この後悔と孤独を、この先ずっと背負っていくのか。そう思うと、胸が押しつぶされそうだった。