至上最幸の恋

 容赦なく吹きつける冷たい風に体は冷え切っているはずなのに、不思議と寒さは気にならない。いまはとにかく、この景色を夢中で描き留めておきたかった。

 少しずつ陽が傾いてきた。キリのいいところまで描けたし、そろそろ次の場所へ向かわなければ。

 車に戻り、再びサンセットロードを走り出す。
 芥屋の大門は、遊覧船に乗れば海側からも見られるそうだが、あいにく冬場は運航していない。しかし展望台からも見ることができると、信さんが教えてくれた。

 大門公園の駐車場に車を停めて外に出ると、潮の匂いが一段と濃く感じられた。

 大祖神社の脇を通り過ぎ、木々に覆われた遊歩道へと足を踏み入れる。まるで緑のトンネルのような小道だ。幾重にも重なる落ち葉を踏みしめるたび、足元でカサカサと乾いた音が鳴る。

 そのまましばらく歩き続けると、ふいに視界が開けた。その先に、大人ひとりが乗れるくらいの小さな展望台がある。

 ここから見下ろす芥屋の大門は、きっと海から見上げる姿とは別物なのだろう。それでも、むき出しの荒々しい岩肌と、奥に広がる玄界灘の深い青のコントラストは、息を呑むほどに美しかった。

 本当なら、船から正面の姿と向き合えたはずだった。けれど、全貌が見えないからこそ、想像はどこまでも膨らんでいく。
 
 近づけなかったものほど、頭の中でその輪郭はかえって鮮明になっていくのだ。見えない部分を自分なりに思い描くこの時間も、きっと絵を描くためには欠かせないのだろう。