至上最幸の恋

 絵の題材探しというのは口実で、本当はただ、遠くへ行きたかっただけなのかもしれない。
 自然に囲まれた場所で景色を眺めていると、普段は見ないふりをしている自分の心が、やけにはっきり見えてくる。

 そして、こういうおもしろい出会いがあるから、旅はやめられないんだ。

「糸島には、どのくらいおるとね?」

 オレと同じトンカツ定食を食べ終わった信さんが、つまようじを手にしながら言った。

「いや、特に決めてはいないです」
「宿は取っとらんと?」
「はい。基本的に、行き当たりばったりなので」
「それなら、うちに来んね!」

 信さんが、ずいっと体を寄せてきた。

「信さんのお宅にですか?」
「朝食と夕食つき、宿代はタダ! どげんね?」
「そこまで甘えるわけには」
「代わりに糸島の絵を描いてくれたら、それでよかたい!」

 ……これも断れそうにないな。
 そう思って素直に頷くと、信さんはオレの手を取り、嬉しそうに何度も振った。

 オレは、こういう人間を引き寄せる能力でも持っているのだろうか。旅に出ると、世話を焼いてくれる人がいつも現れる気がする。
 4年前のウィーン旅行では、宿を探していたオレに、ラウロが声をかけてくれた。彼とは、いまも定期的に連絡を取っている。

 旅での出会いは一期一会と思っているが、案外長く続く縁もあるものだ。