後悔しない、ひとつのこと

家に着いたらテキパキと夕飯の準備をする。

「よしっ完成!」

ピロン

スマホの通知音。夕飯時には瑞希と優菜は連絡をしてこない。

「お母さんかな」

通知を確認するためにスマホを持つと、急に着信音が鳴り始めた。

「わっ!もう、びっくりした」

画面には "木浪 廉" の文字。

急に電話がかかってきたことを不思議に思いながらも通話ボタンを押す。

「もしもし」

「あ、七瀬?ごめん急に。今大丈夫?」

「大丈夫」

そう言いながら時計をチラッと見る。

19:30

お母さんはまだ帰らない。

「どうしたの?」

「明日でもいいかと思ったんだけど、早いうちがいいかと思って」

「うん、なに?」

「遊ぶのっていつかなって」

「都合のつくときでいいよ、私が無理言ったんだし」

私は木浪が感情を表に出せるようになったらいいから。

今はまだ私の勘でしかないけど、いつか木浪からも話を聞きたい。心を開いてほしい。...自分勝手か。

ってなに考えてるんだろう。

「わかった。ありがとう、爽」

「名前_」

一瞬聞き間違えかと思ったが、違うようで。

「嫌だった?」

「嫌じゃないよ、ありがとう廉」

相手が名前で呼んでくれるなら私も名前で呼んでもいいかと、そう思った。

「距離が縮まった気がする。よろしくな」

嬉しそうな声はしているものの、やっぱりどこかひっかかりも感じられる。

その時、電話の向こうから低い声が聞こえた。

''おい何してんだよ、さっさとしろ''

「ごめん、切る」

そうしてすぐに電話は切れた。

「あの声_」

スマホを介して聞こえたあの言葉は、とても木浪...いや、廉を大切に思っているとは思えなかった。

一体誰が発した言葉で、その人は廉のことをどんな風に思ってあんなことを言ったのか。

「わからない」

廉、あなたは私が思っているよりももっと辛くて重いものを背負っているの?