後悔しない、ひとつのこと

父さんはそれからずっと、俺の話だけを聞いてくれた。

「.....爽が好きなんだ。爽がいなくなったら迷子になったみたいで。どこに行けばいいかも。どうすればいいかも。全部がわからない。今まで見ていたものも急に怖くなる」

「父さんは思うんだ。爽さんはきっと、廉が自由に生きること。自分が楽しいと思ったこと、悲しいと思ったことを伝えること。そんなことを望んでくれていたんじゃないか」

そうなんだろうか。

本当にそう思ってくれていたのだろうか。

.........そうなんだろうな。

爽は優しいから。

そんなこともわからなくなっていた。

遊びに誘ってくれたのだって、きっと気づいていたからだと思う。

爽は ''俺'' を見てくれていた。

''どんなことがあっても、誰に何を言われても。私たちは私たちらしく、自分を表現することが大切だと思います。''

いつだったか、爽は作文でそんなことを書いていた。

.............その時から、爽は俺の居場所を少しずつ組み立ててくれていたのかもしれない。

だったら...俺も逃げてはいられない。

「父さんの言う通りだと思う。爽はそういう子だったから。.......俺、聞いてくる。爽に何があったのか。もう、逃げないよ」

父さんはしばらく俺の目をじっと見つめてから言った。

「がんばって」

しっかり頷いてから、リビングを後にする。

そして、爽に何が起きたのか。

その真実に向かって歩を進める。

先に一瞬だけ。

微かな光が見えた気がした。