後悔しない、ひとつのこと

その後、どうやって家に帰ったのかは思い出せない。

でも、玄関で父さんが出迎えてくれて。

「話をしないか」

そう言われた。

机を挟み、向き合って座る。

「どうしたの」

自分の手のひらを見つめたまま聞く。

「.......何かあったんだろ?先生から聞いたんだ。せっかく遅刻せずに来たのにどっかに行ったって」

「.............」

「今までの遅刻は全部父さんのせいだ。今回も、そうなのか?」

「それはちがうっ」

悲しそうに尋ねる父さんに、すぐ返事をしないわけにはいかなかった。

「じゃあ、どうして」

わけがわからないというように首をかしげる。

「爽が......爽と、もう会えなくなったんだ」

父さんは目を見開いた。

「引っ越しちゃったのか?」

「違うよ」

違うよ、父さん。

爽は.......爽は、

「死んだんだ」

その言葉を口にした瞬間、自分の中でなにかが抜け落ちた気がした。

もう爽は隣にいてくれない。

''大丈夫'' そう安心させてくれない。

約束だって、守られることはない。

それを理解した瞬間。

自分の先に見えていた道が、音を立てて崩れた。

そこに確かにあったはずのものが、跡形もなく消えた。