【完結】【修正版】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。


 春夜君のお家に引っ越してもいいか家族に相談する。鰺の塩焼きを食べていた父があんぐりと口を開け、こっちを見ている。十二畳程のLDK……そのキッチン部分で料理をしていた母が、透かさず口を挟んでくる。

「何バカな事を言ってるの。許す訳ないでしょ。それより! 勉強は捗ってるの?」

 母に睨まれる。最近、色々あり過ぎて目を逸らしていたけど。来週、中間テストがあるんだった。

 母は首を横に振り、溜め息をついている。後方で結ばれた長い黒髪も揺れている。黒地に白の横縞が入った七分袖のTシャツと青っぽいジーンズの上から飾り気のない赤いエプロンという出で立ちで、手に玉ねぎと包丁を持っている。

 父は、まだ口をあんぐりさせたままだった。ふさふさした茶髪で黒縁の眼鏡を掛けており、今は家着のトレーナーとジャージズボン姿だ。テーブルの向こうで箸を手に持ち静止している。

 父は驚いているような、母は呆れているような反応だった。


 ……そんな母一強の家族会議だった。薄々反対されるのは分かっていたけど。私は、まだ親に養われている身だし。自分で生活できる力もない。母からしたら、切り捨てて当然の意向なんだろう。

 だけど。もやもやした気持ちが残る。もう少し、話を聞いてくれたっていいでしょ!

 自室の机に向かい勉強している。思い出しては、度々憤っていた。



 次の日は木曜。塾の帰り道で、春夜君に昨夜の一件を報告した。

「そうですよね。仕方ないです。今は」

 春夜君の声にも残念そうな響きがある。
 まだ自分の気持ちを整理できていない。言い足りなくて打ち明ける。

「私、何だかもやもやしてて……」

「はい」

「思ってた以上に、楽しみにしていたのかもしれない。春夜君のお家に引っ越すの」

「はい」

「放課後に、こうして会えるけど。それだけじゃ足りないって、欲張りな事ばかり考えてるの」

「……はい」

「もっと、春夜君と一緒にいたい」

「何?」

 相槌を打ってくれていた春夜君の声が、急に不機嫌な雰囲気を孕んだ。同時に、彼の腕が私の行く手を遮る。ビルの柱に手をつき睨んでくる。……柱ドン?

 自動販売機の設置された駐車場のある、ビルの柱だ。裏道側の方で暗い夜道に駐車場の明かりが眩しくもある。

 彼の態度が変わったので、何か怒らせる事を言ってしまっただろうかと慌てて思考を巡らせる。

「どういうつもりで言ってる?」

 聞かれて面食らう。質問の意図を尋ねてみる。

「どういうつもりって?」

「…………っ。明って、そんなにオレの事が好きだった?」

 彼は始めに何か言い掛けたけど、言葉を呑み込んだ。その後で尋ねられたのは、言うのをやめた言葉とは違うもののようだった。

 ハッと気付いた。私……さっきのは失言だったかもしれない。もっと一緒にいたいって言ったから、我が儘で重い女だと思われた? ハッキリと指摘されなかったのは、彼が優しいから。慎重に言葉を選んでくれた可能性が高い。

「ごめんね。迷惑だよね。重いよね私……」

 自分で言ったのにダメージを食らう。努めて明るい表情を作っていたけど。言葉の後半は恐らく……苦笑いになっていたと思う。俯いた。

「何言ってんですか?」

 不機嫌そうな声が聞こえた。顔を上げる。相手には……少し困ったような……だけど、どこか嬉しげにも見える微笑みがあった。

「オレの方が明より、ずっと重いです。明をオレの家に住まわせたかったのも、もっと一緒にいたいとか優しい理由だけじゃないです」

 驚いた。本当にそうだろうか? 私は欲深くて、本当は春夜君を……。だから、疑いの目を向ける。

「別の理由って何?」

「知りたいですか?」

 頷いて見せる。妖しげな眼差しを向けられた。

「何だと思います? 当ててくださいよ」

 にっこり笑い、意地悪な事を言ってくる。

「またそれ? 狡いよー!」

 前も、こういうパターンあったよね? 不満を訴える。彼は面白がるように目を細くした。

「当たったら教えてあげます。分かるまで」

 何それ。まるで私が当たりを答えられたとしても、分かってないみたいな口振り。むむむ……。絶対に当ててやる。

 そうは考えても難しいなぁ。春夜君が家に私を住まわせたい理由……?

 私だったら……。もし私の家に春夜君が引っ越してきてくれたら、すっごく楽しいんだろうなぁ毎日。帰りだけじゃなくて朝も一緒に登校できるし。

 そうしたら不安なんて、なくなるかもしれない。

「明?」

 俯いて考えていた時、春夜君に声を掛けられてハッとする。

「考えるの長いです。そろそろ答えてください」

 少しぶっきらぼうな声で促される。彼を見つめた。

 まさか。彼も私と同じ理由を持っているなんて有り得ないよね。こんなの、きっと私だけだ。悟られないように隠しておかないと。

 ……まさかだよね。

 苦笑する。違うと分かっているけど尋ねる。

「ほかの人に取られるのが嫌だから、一緒に住んで周囲を出し抜きたいとか? あとは……仲を深めたい……とか。なんてね。あはは……」

 言っていて恥ずかしくなり、笑って誤魔化す。これ全部、私の理由だ。自分の中にある感情を、柔らかく軽くして言葉に落とした。

 春夜君は私の事が好きなんだって分かっていても、まだ不安が残っている。晴菜ちゃんみたいに可愛くて明るくて優しい子から好意を向けられたら、きっと春夜君だって気が変わってしまうだろう。だから一緒に住んで彼の傍にいたい。好きになってほしい。私だけを見てほしい。彼を幸せにできるのは私でありたい。

 春夜君は驚いた時にするように、目を見開いている。

「全部、正解です」

「えっ?」

 有り得ない答えを返され、耳を疑う。大きめの声で聞き返していた。

「え……? 春夜君。ほかの人に取られるのが嫌とか、もっと仲良くなりたいとか考えてくれてたの? ありがとう」

 嬉し過ぎて、目頭がジーンとしてしまう。

「当たり前じゃないですか」

 何故か彼は、不機嫌そうな視線を送ってくる。柱ドンとは反対の手で頬を撫でられる。

「明が悪い。いつも無防備だし、ぼやっとしてるし。明の何もかも、オレのものです。その目も、口も、声も、心も……全部。ほかの奴に向けようとも思わないくらい、オレしか考えられなくさせたい。本当は明にも同じくらい想ってもらいたいんです…………ごめん。今のなし! 何言ってるんだろうオレ……」

 彼の台詞を、ポカンと口を開けて聞いていた。……え?

「やっぱり重いですよね?」

 少し元気のない声で微笑み掛けてくる。手を引かれて夜道を歩く。バス停への、いつもの歩道を進んでいる。

 心臓がドクドク音を立てる。凄く顔が熱い。

 えっと……?

 ど、どうしよう。春夜君と手を繋いでいるだけで、凄くドキドキしてるよ。もうキスとか……手を繋ぐどころじゃない、高レベルな接触もしている間柄なのに!

 横断歩道を渡って、バス停のある場所まで来た。

「次のバスは……五分後ですね」

 春夜君が時刻表でバスの到着時間を調べてくれた。もうすぐバスが来て、それぞれの家に帰る。寂しく思ってしまう。

 いつだったか春夜君が「あと三分で、バスがバス停に着く時刻なのに。全然帰りたくなくて焦ってます」って、言っていた事があった。あの時は、深く考えていなかったけど。もしかしたら……今の私みたいな気持ちだったのかな。

「明?」

 俯いて考え込んでいた時分、声を掛けられて驚いた。ビクッと体が揺れる。

「何を考えてるんですか?」

「えっと……」

 問われて口籠もる。今、私が思っている事を……そのまま言っていいんだろうか。だめだよね? 絶対、春夜君を困らせてしまう。

「何でもない」

 口にしたけど。春夜君の目が冷たい印象に細まったので、見透かされているように感じる。

「本当に?」

 更に尋ねられたけど。誤魔化す事に決めた。春夜君も、きっと……早く帰って勉強したいだろうし。私と過ごしている暇なんて、本来ならない筈だ。

「うっ……うん!」

 取り敢えず答えたけど。我ながら嘘っぽいニュアンスの声だと思う。苦笑いしていたところで両肩を掴まれた。

「オレの目を見て、答えてください。本当に、何も考えてなかった?」

 真剣な雰囲気で聞かれる。「本当は、もう少しだけでも一緒にいたい」と、我が儘を言いそうになるけど。何とか堪える。

 少し笑みを作り、返事をした。

「うん」

 春夜君の顔が近くなる。


「オレ、まだ明と一緒にいたいんですけど。ダメですか?」

 キスの後に言われた。

「えっと……」

 相手の顔を、まともに見れない。

 私も一緒にいたいよ? でも最近、春夜君が凄く私に甘いから……溺れて呼吸も苦しくなりそうなんだよ。心の内で葛藤する。

 どこかでブレーキを掛けないと私、どんどん欲深く邪になっていく。もうすぐテストもあるのに! このままじゃダメだ。

 自分ではコントロールできそうにない感情の波に呑まれそうで震える。視線を下に逸らし、しどろもどろに口を動かす。

「ごめんねっ、テスト勉強しないといけないからっ!」

 彼の肩を押して体を離した。赤くなっているであろう顔を隠す為に俯く。鳴り止まない胸の中央を、両手で押さえる。

「明……?」

 春夜君の呟きが聞こえると同時に、バスの停車音が響いた。何事もなかったかのように促す。

「行こう?」

 彼と視線を合わせられないまま、先にバスへ乗り込んだ。




 次の日。困惑し過ぎていて、どんな顔をして会えばいいのかも分からなくなっていた。教室の自分の机に突っ伏し、頭を抱える。今までの私は、どんな顔で彼と接していたかな? 考えている内に思考がすり替わる。春夜君の事ばかり思い浮かぶ。

 だけど悠長に思い耽っている時間はなかった。放課後に彼と会う予定がある。

 自分の事に気を取られ、忘れ掛けていたけど。今日は花織君と佳耶さんのデートの日だった。花織君と舞花ちゃんがラブラブになった今……あの四人は、結局どうなるんだろう。




 放課後になり、再び春夜君のお家へお邪魔する。

 来る途中……バスの中や歩道を歩いている時も始終、春夜君からのじっとりとした視線を感じていた。私が挙動不審だから、気にしてくれているんだと思う。ごめんね。今は自分でも、どうしていいのか分からないよ。

 春夜君、舞花ちゃんとリビングへ入る。最初に目にした光景に、度肝を抜かれる。

 理お兄さんと佳耶さんがキスしている。それを花織君が泡を食った表情で見ている。……といった場面に遭遇した。