【完結】【修正版】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。


 朔菜ちゃんが休憩所の方へ向かった。私もバッグから視線を離し、後を追う。

 休憩所には……ほとりちゃんと、ユララ姿のさりあちゃんが立っている。話をしていたらしい二人が、私たちに気付いた。

「似合ってるじゃん」

 朔菜ちゃんの褒言葉に、さりあちゃんはそっぽを向き……投げ遣りな口調で返している。

「フン! そっちも、上等ね」

 朔菜ちゃんの衣装は水色が多く使われているけど、さりあちゃんの衣装は水色のほかにエメラルドグリーンも入っている。朔菜ちゃんが着ているのは初期のユララの基本コスチューム。さりあちゃんのはアニメが進んでいく中でバージョンアップしたタイプのものだ。

 さりあちゃんの方もスラッと背が高く大人っぽい、美人なユララに仕上がっている。ユララは元々……キャラの中でも、お姉さん的なポジションだった。さりあちゃんの醸し出す雰囲気も、凄く似合っているように思う。

「さあ、準備できた事だし。さっそく始めよう!」

 ほとりちゃんが手を打ち、意気揚々と宣言する。

「二人とも。心ゆくまで、存分に戦って!」

「えっ?」

 ほとりちゃんの言い出した内容が理解できなくて、思わず聞き返す。朔菜ちゃんとさりあちゃんも同じ心境だったようで、三人の声が重なる。せっかく仲良くなり掛けていた二人を、わざわざ戦わせるとは。どんな了見だろうか。

「この格好でっ?」

 朔菜ちゃんが尤もな意見を呈する。二人が戦ったら、この素敵な衣装も……ボロボロになってしまうのではないだろうか。

「私ね、思ってたの。衣装ができたら二人に着てもらって……思いっ切り、悔いのないくらい戦ってもらって…………それで、いがみ合うのは終わりにしてほしいって。これっ切りにしてほしいって。だから今日が、ケンカできる最後の日って事で。二人とも、全力を出し切って!」

 こぶしを握って力説するほとりちゃんに、朔菜ちゃんとさりあちゃんは微妙な顔色をしている。

「ごめんほとり、そんな事できない」

 朔菜ちゃんが神妙な表情で、ほとりちゃんと向き合う。ほとりちゃんに言い聞かせている。

「全力で戦えば……ほとりが、せっかく作ってくれたこの衣装も……きっと破れてしまうだろうし。何より……人の目が気になってそれどころじゃないの、今。こっちの休憩所の方は、まだマシだけど」

 朔菜ちゃんの頬が、薄ら赤い気がする。
 さりあちゃんも朔菜ちゃんに同調するように……深く深く頷いている。彼女は焦りの窺える声で、ほとりちゃんを促す。

「早く写真を撮りましょ? ユララになれたのはいいのだけれど。恥ずかしさで、頭がおかしくなりそうなのよ」

 さりあちゃんの気持ちも分かる。こんな田舎も田舎な場所で、全力でアニメのキャラになり切っている人がいたら目立つ。通り掛かる人の誰からも、ジロジロと見られるのは必至。

「ちぇー。動画を撮って、二人の弱みを握ってやろうと思ってたのに」

 ほとりちゃんが肩を落としてブラックな発言をしている。すぐに気を取り直した様子の彼女は、二人に新たな要求を持ち掛ける。

「じゃあ、ユララになり切って……彼女のセリフを言うのは?」

 動画の準備は完了していると言いたげに、二人へスマホを向けた格好で……ほとりちゃんがドヤ顔をしている。朔菜ちゃんとさりあちゃんの表情がハッと、何かに思い至ったような真剣なものになる。朔菜ちゃんが言葉にする。

「そっか……。この姿で言えるんだ。あのセリフも!」

「いつもの、決めゼリフも!」

 さりあちゃんも声を響かせる。長年に亘り、抑圧されていたものを解放された人のように……高らかに。

 朔菜ちゃんとさりあちゃんが視線を合わせている。その心は、確かに通じ合っているように見えた。


 一頻り……二人がセリフの言い合いを満喫した後、いよいよ写真撮影タイムに移る。

 木の柵に腰掛けて薄を眺めるユララ姿の朔菜ちゃんにスマホを向ける。どこか物憂げな表情も、美しくて見惚れてしまう。

 粗方、休憩所での撮影を終え……いよいよ海の方へ行ってみようという話になった。海までは車の通りがある道を歩かないといけないので、朔菜ちゃんとさりあちゃんには予め持ってきてもらった丈が長く大きめの上着(フード付き)を着てもらう。
 二人の今の姿は……私は皆に見せびらかしたい程、凄くいいと思うけど。本人たちにはまだ、心の葛藤があるみたいだった。

 歩道を進む。目的の海が見えてくる。道路沿いに続く堤防の先から果てまで、青々と広がっている。堤防下の小さな砂浜に、白い波が打ち寄せている。堤防が途中で切れている場所があり、見付けた階段から砂浜へ下りた。

 私たちは無我夢中で、写真を撮りまくる。きらめく陽光の下、美少女と美女のユララを堪能させてもらった。このアニメのファンという訳でもなかったけど……彼女たち三人のおかげで、凄く好きになったよ。

「あっ!」

 急に、ほとりちゃんが叫んだ。

「そろそろ戻らないと。時間の事……忘れてたねぇ」

 言われてスマホの時計を確認する。あと十分で約束の二時間が経つ。
 私たちは砂浜を後にした。


 元いた駐車場へ帰る道すがら。朔菜ちゃんが「今すぐトイレに行かないとヤバい」と言い出したので聞いてみる。

「えーっと、駐車場のトイレまでは……」

 朔菜ちゃんは悲痛な表情で言い切る。

「持たない」

「そういえば、そこに公園があったわよね? さっき来る時、トイレがあるの見えたわ」

 さりあちゃんの助言を受け……朔菜ちゃんは「恩に着る」と言い残し、走って行く。

「あっ! じゃあ私、朔菜ちゃんと一緒に戻るね!」

 さりあちゃんとほとりちゃんに伝えて、朔菜ちゃんの後を追う。知らない土地で女の子の一人行動は心配だ。

「私たちは先に戻ってるねー!」

 ほとりちゃんが声を掛けてくれる。手を振って応えた。


 きっと、もう……沢西君たちも駐車場に戻っている頃だろうな。薄ら思っていた。だから彼らと公園で鉢合わせる事もないと考えていた。

 思った通り、公園に彼らの姿はなかった。だが。

 トイレの建物へ向かおうとしていた足が止まる。男子トイレから誰か出て来る。その人は何やらブツブツと呟いている。

「でもな。やっぱり怖いんだよ。満足にユララを再現できる筈がない。いたいけな女子高生が頑張って、なり切っているのに。オレは……それを見て幻滅してしまう心の醜さを、まざまざと思い知って自分にも幻滅してしまう……」

 花織君だ。何を言っているのかよく理解できなかった。小さく早口に呟いていた彼は、今度は何かを考え込む素振りで沈黙している。

 少し離れた場所にある木陰から、様子を窺う。どう対処しようか思考している内に、女子トイレから朔菜ちゃんが出て来た。彼女は「走ったから、汗かいちゃった」と独り言ち、上着を脱いでいる。

 動作の途中で、やっと……花織君の存在に気付いたようだ。恐る恐るなのだろう。ゆっくりと顔を上げている。二人の視線が合う。花織君がポツリと言う。


「現世に舞い降りし女神?」


 朔菜ちゃんが踵を返す。逃げる体勢だった彼女の腕が、花織君に掴まれる。

「何だよこれ……! 聞いてない!」

 彼は焦りを孕む如き勢いで、朔菜ちゃんに詰め寄っている。朔菜ちゃんは花織君の手を振り払い、駐車場のある方面へと走って行く。花織君は呆然とした顔で、彼女の去った方向を見ている。呟きが聞こえる。

「聞いてねぇぞ。こんな…………半端ねぇクオリティだって」



 朔菜ちゃんを追い掛けて、歩道を走っている。

「あっ! ユララだ!」

 近くを通り過ぎる車の窓から子供が、朔菜ちゃんへ手を振っている。朔菜ちゃんの足が止まる。彼女が上着を羽織っている間に、追いつく事ができた。

「朔菜ちゃんっ! やっと、追いついたっ……!」

 息も切れ切れに話し掛ける。振り向いてくれた。
 ホッとして、膝に手を置く。走って速くなった心臓を、落ち着けようと試みる。朔菜ちゃんも胸を押さえて、息を整えている。

「花織君に見られて、びっくりしたのは分かるけど」

 指摘する。朔菜ちゃんは、ゾッとした時にするみたいな顔で言う。

「まさか、いるとは思わなかったから……マジでビビったよ」



 駐車場に戻って来た。木の柵に腰を下ろす格好で、沢西君と理お兄さんが喋っている。

「あっ! 先輩!」

 沢西君が私たちを見つけて、こっちへ来る。それまで私の隣にいた朔菜ちゃんが急に走り出して、トイレの建物の中へ消えた。

「……そんなに見られるの嫌なんですかね? さっき戻って来た二人も、オレたちをさけるようにトイレへ駆け込んでましたし」

 沢西君が、不服そうにぼやいている。

「皆、恥ずかしがり屋だから……。あ! 後で写真を共有するね!」

 朔菜ちゃんたちから「写真は、このメンバー内でだけ共有してもいい」と許可をもらっていた。
 いつの間にか、沢西君の後方に理お兄さんが立っている。話し掛けられた。

「ちょっと個人的な頼み事なんだけど、写真は共有しないでほしい。春夜と花織には。俺にだけ全部、送ってくれると助かる」

「え……?」

 理お兄さんの頼み事の意図が分からず、困惑して見返す。完璧とも言える落ち度のないスマイルは微塵も揺らがず、そこから考えを計り知る事はできなかった。彼は愉快そうに「花織には秘密にしてね」と、人差し指を口に当てるジェスチャーをしてくる。

 沢西君はそれでいいのかな?

 視線を移す。目が合った。彼も頷いている。


 少しして、花織君が戻って来た。十五分後くらいには、朔菜ちゃんたちも駐車場に集まっている。
 朔菜ちゃんも、さりあちゃんも。来た時と同じ、私服姿に戻っている。髪型も普段のもので、ユララメイクも跡形もなく落とされていた。

 花織君が少し離れた場所から、朔菜ちゃんのいる方を……悲愴な面持ちで見つめている。

 朔菜ちゃんが理お兄さんたちへ頭を下げる。

「今日……ここへ連れて来ていただいて、ありがとうございました。一生の思い出になりました。もう高二だし……これでユララの事は、スパッと忘れようと思っています」

 彼女は顔を上げて、晴れやかに微笑んだ。