蝶々結び【完結】


ある日の午後。



処置室で、結衣は物品の整理をしていた。

しゃがみ込んで下の引き出しを開けていると、
ふいに上の棚からガーゼの箱が何個か落ちてきた。



「わっ!」



その瞬間、陽向先生の腕がスッと伸びて、結衣の頭上を庇った。



箱は先生の肩に当たって床に転がる。



「危なっ、橘さん。怪我したらどうするの。」


「……ありがとうございます。」


「お礼はいいけど、気をつけてね。僕がいないと危なっかしいな。」


「そんなことないですっ…!」


結衣が慌てて立ち上がると、陽向先生との距離が一気に縮まった。

見上げたその瞳が、冗談ではなく真剣で――
鼓動が、また早くなる。



「……あの、陽向先生?」

「ん?」

「そんな近くで見ないでください。」

「なんで?綺麗だから、つい見ちゃうんだけど。」

「っ!」



結衣は慌てて顔をそらした。
頬にじわりと熱が広がる。

陽向先生は、いたずらっぽく笑って小声で囁いた。



「はは、顔赤いよ。……熱あるんじゃない?」

「ないですっ…。」

「ほんとに?やっぱり診察しようか?」

「いりません!」


そのやりとりを、ドアの外で聞いていた柚希が、
「ふたりともなんか仲良いですよね〜?」とニヤニヤしながら入ってきた。


結衣は慌てて距離を取り、
「い、今のは違うから!」と顔を真っ赤にして弁解した。


陽向先生は苦笑しながら、
「そうそう、違う違う。ね、橘さん?」とあくまでとぼけていた。




(この人、ほんとずるい……!)