辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 気持ちがぐちゃぐちゃで言葉を出せずにいたら、匠真が沙耶の顔を覗き込むようにした。
「沙耶?」
 そのとき、ドアが開く音がした。
「沙耶ちゃん、お待たせ――」
 涼花の声がピタリと途切れて驚きの声に変わる。
「ええっ、匠真くん!?」
(涼花さんを傷つけてしまうっ)
 沙耶はあわてて匠真の胸に両手を押し当てた。そのまま彼の腕の中から抜け出そうとするのに、たくましい彼の体はピクリとも動かない。
「た、匠真さん、離れてください」
「嫌だ」
「お願いですから」
「沙耶は俺のことが嫌いになったのか?」
「そうじゃないんです」
「だったら、なぜ?」
 匠真が沙耶の耳元に唇を寄せたので、沙耶は反射的に叫ぶように言う。
「涼花さんを傷つけたくないんですっ」
「え?」
「私?」
 匠真と涼花の声が重なった。沙耶は罪悪感を覚えながら、涼花のほうを見た。彼女は不思議そうな表情で沙耶を見ている。
「私がどうして傷つくの?」
「それは、その……」
 彼女の気持ちを勝手に言っていいものかわからず、沙耶は口をつぐんだ。涼花が沙耶に一歩近づく。
「沙耶ちゃん?」
「えっと、その、涼花さんは」
 沙耶は涼花から匠真へと視線を動かした。つられたように目を動かした涼花は、沙耶を腕の中に閉じ込めたままの匠真を見て、「あっ」と声を上げた。
「もしかして沙耶ちゃん、私が匠真くんのことを好きだと思ってるの?」
 沙耶は唇を引き結んで小さくうなずいた。直後、涼花が噴き出す。
「やだ、それはないよ~」
 そう言っておかしそうにクスクス笑いだした。匠真はため息まじりの声を出す。
「そんな誤解をしてたから、電話での様子がおかしかったのか」
「えっ、でも」