辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 ぼんやりしたままグラタンにフォークを入れて、口に運ぶ。
「熱っ」
 さっきオーブンから出したばかりの出来立てなのだから、熱くて当たり前だ。
 沙耶は涙目になって、水を飲んだ。
(しっかりしなくちゃ)
 気持ちを立て直しながら、フォークを動かす。けれど、あまり味わえないまま食べおわって、「ごちそうさま」とフォークを置いた。なにげなくスマホを取り上げたら、匠真からメッセージが届いていた。
【ただいま。今、空港に着いた】
 時刻を見たら、今から四時間ほど前になっている。沙耶がプラチナで勤務を始めた直後だ。
【おかえりなさい】
 メッセージを送信すると、すぐに匠真から返事があった。
【今休憩中?】
【はい】
【電話してもいい?】
 少し迷ったものの、【はい】と返信した。既読がついた直後、匠真から電話がかかってくる。
「匠真さん、おかえりなさい」
『ようやく沙耶の声が聞けた』
 ホッとしたような匠真の声が言った。
「学会、お疲れさまでした」
『ありがとう。沙耶の声が聴けて嬉しいけど、やっぱり会いたい』
 電話の向こうで、匠真が小さく息を吐いた。
 会いたい思いと、涼花のこと、静枝の話が同時に思い出されて心が揺れる。
 沙耶がなにも言えずにいたら、匠真の声が聞こえてきた。
『沙耶? 体調が悪いのか?』
「えっ、いいえ、そんなことないです」
『声に元気がない』
「そんなことないですよ」
 沙耶はできるだけ明るい声を出した。
『そうかな。沙耶はがんばりすぎるところがあるから、心配だ。きちんと寝てるのか?』
「はい」
『食事は?』
「食べてます。さっきまで、ヒーコさんが作ってくれたグラタンを食べてました」
『それならいいんだが。沙耶が元気がないと、俺も元気がなくなる』
 その匠真の声に、胸が締めつけられた。