沙耶は気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。匠真が沙耶に近づいてくる。
「買い物に行ってたって聞いたけど、走ってきたの?」
「あ、そういうわけじゃないんです」
沙耶は笑顔を作ったものの、内心は気が気でなかった。
匠真と沙耶の関係にあんなにも傷ついている涼花。その彼女の前でふたり一緒にいるなんて。
「あの、私、明日の下ごしらえがあるので、失礼しますね」
沙耶は匠真のそばをすり抜けるようにしてバックヤードから出た。キッチンでは涼花が沙耶に背を向けて立っている。少しうつむいて目元を押さえていた。
それに気づかないふりをして、沙耶はなにげない口調を装う。
「涼花さん、ただいま戻りました。あの、私、明日のフライドチキンの味付けをしておきますね」
「ん、お願い」
涼花は顔を上げずに答えた。その声は、湿っているように聞こえた。
「沙耶?」
匠真が沙耶を呼びながらバックヤードから出てきたので、沙耶の心臓がドクンと波打った。
(涼花さんの前で呼び捨てにしたら、涼花さんがもっと傷ついちゃうっ)
沙耶はわざと大きな音を立てながら、戸棚を開け閉めした。
「あ、あれっ、ボウルがない……どこだったかな」
「それなら食洗器に入れたよ。洗い終わるまでしばらくかかると思うから、あとで私がやっておくよ」
涼花は明るい声を出していたが、相変わらず沙耶に顔を向けようとしなかった。
「あ、いえ。フリーザーパックに入れたほうが楽なので、そうします」
沙耶は匠真のほうを見ないようにしながら、手をきれいに洗った。鶏モモ肉を包丁で切ってフリーザーパックに入れ、プラチナ特製のスパイスを揉み込む。
その間、誰も一言も発しない。
なにか言おうかと思ったが、当たり障りのない話題が思い浮かばない。
沈黙を居心地悪く感じたとき、涼花が声を発した。
「匠真くん、よかったら一緒にまかない食べない? 私たち、これから食べるところだったんだ」
「俺の分もあるなら、お願いしようかな」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
涼花はコンロに向き直って、残っていた料理を温めはじめた。沙耶は鶏モモ肉のジッパーをしっかりと閉じて、キッチンの冷蔵庫に入れた。
「沙耶ちゃんも食べるよね?」
「買い物に行ってたって聞いたけど、走ってきたの?」
「あ、そういうわけじゃないんです」
沙耶は笑顔を作ったものの、内心は気が気でなかった。
匠真と沙耶の関係にあんなにも傷ついている涼花。その彼女の前でふたり一緒にいるなんて。
「あの、私、明日の下ごしらえがあるので、失礼しますね」
沙耶は匠真のそばをすり抜けるようにしてバックヤードから出た。キッチンでは涼花が沙耶に背を向けて立っている。少しうつむいて目元を押さえていた。
それに気づかないふりをして、沙耶はなにげない口調を装う。
「涼花さん、ただいま戻りました。あの、私、明日のフライドチキンの味付けをしておきますね」
「ん、お願い」
涼花は顔を上げずに答えた。その声は、湿っているように聞こえた。
「沙耶?」
匠真が沙耶を呼びながらバックヤードから出てきたので、沙耶の心臓がドクンと波打った。
(涼花さんの前で呼び捨てにしたら、涼花さんがもっと傷ついちゃうっ)
沙耶はわざと大きな音を立てながら、戸棚を開け閉めした。
「あ、あれっ、ボウルがない……どこだったかな」
「それなら食洗器に入れたよ。洗い終わるまでしばらくかかると思うから、あとで私がやっておくよ」
涼花は明るい声を出していたが、相変わらず沙耶に顔を向けようとしなかった。
「あ、いえ。フリーザーパックに入れたほうが楽なので、そうします」
沙耶は匠真のほうを見ないようにしながら、手をきれいに洗った。鶏モモ肉を包丁で切ってフリーザーパックに入れ、プラチナ特製のスパイスを揉み込む。
その間、誰も一言も発しない。
なにか言おうかと思ったが、当たり障りのない話題が思い浮かばない。
沈黙を居心地悪く感じたとき、涼花が声を発した。
「匠真くん、よかったら一緒にまかない食べない? 私たち、これから食べるところだったんだ」
「俺の分もあるなら、お願いしようかな」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
涼花はコンロに向き直って、残っていた料理を温めはじめた。沙耶は鶏モモ肉のジッパーをしっかりと閉じて、キッチンの冷蔵庫に入れた。
「沙耶ちゃんも食べるよね?」

