男性は省吾だった。チノパンに黒色のダウンジャケットを着た省吾は、二カ月以上前、最後に会ったときよりも髪が伸び、痩せたらしく全体的に引き締まっていた。食品会社で一緒に働いていたときよりも、ずっと垢抜けて見える。
ずいぶん印象が変わっていたので、後ろ姿で彼だと気づかなかった。
沙耶が驚いているうちに、省吾が沙耶に駆け寄ってきた。
「沙耶!」
省吾の勢いに気圧されして沙耶は半歩下がったが、彼はその距離も詰めた。
「俺たち、やり直そう!」
省吾が沙耶のマンションの前にいた驚きからも立ち直れていないのに、突然そんなことを言われて、沙耶は唖然とした。
「え?」
「俺には沙耶しかいないって気づいたんだ」
「な、なに言ってるの?」
「見てくれよ、このジャケット。五十万もするんだ」
省吾は着ていたジャケットの胸元を引っ張って見せた。そこにはブランドのロゴがエンボス加工されていた。ひと目でわかる、フランスに本店のあるラグジュアリーアパレルブランドのロゴだ。
「新しい彼女は完璧主義でさ。最初こそは俺にいろいろアドバイスをしてくれて、俺も自分がイケてる男になれて嬉しかったんだ。けど、彼女の言うとおりにしないと、すぐに機嫌が悪くなる。先週、ちょっと仕事でミスしてしまって。もちろん、ミスした俺が悪いとは思う。けど、そんな大ごとにならなかったのに、そこまで責めるかってぐらいネチネチ責められるんだよ。もうしんどいったら」
省吾は一気にまくし立てた後、眉を下げて傷ついたような表情で言う。
「こんなことになって初めて、沙耶のそばがどれだけ居心地よかったのか気づいたんだ。俺が間違ってた。本当にごめん」
省吾は勢いよく頭を下げた。
かつてはあんなに好きだった男性(ひと)だが、彼に悲しそうな声で訴えられても、沙耶の心はまったく動かなかった。それどころか、彼が身勝手な言い分を重ねるたびに、冷静になっていく。
「あなたが大変なのは気の毒だと思うけど、一方的に振ったのは省吾くんだよ。あのとき、電話で私に言った言葉を覚えてないの?」
「あれは本当に悪かった。思いあがってた。謝るよ。だから、俺とやり直してほしい」
「今さら謝られてもやり直すなんてできない。あの日、終わらせたのは省吾くんじゃない」
「なんでそんなに冷たいことを言うんだよ。沙耶はもっと優しい女だったじゃないか。沙耶、頼むよ」
省吾が顔の前で両手を合わせて拝むようにした。沙耶は首を左右に振る。
ずいぶん印象が変わっていたので、後ろ姿で彼だと気づかなかった。
沙耶が驚いているうちに、省吾が沙耶に駆け寄ってきた。
「沙耶!」
省吾の勢いに気圧されして沙耶は半歩下がったが、彼はその距離も詰めた。
「俺たち、やり直そう!」
省吾が沙耶のマンションの前にいた驚きからも立ち直れていないのに、突然そんなことを言われて、沙耶は唖然とした。
「え?」
「俺には沙耶しかいないって気づいたんだ」
「な、なに言ってるの?」
「見てくれよ、このジャケット。五十万もするんだ」
省吾は着ていたジャケットの胸元を引っ張って見せた。そこにはブランドのロゴがエンボス加工されていた。ひと目でわかる、フランスに本店のあるラグジュアリーアパレルブランドのロゴだ。
「新しい彼女は完璧主義でさ。最初こそは俺にいろいろアドバイスをしてくれて、俺も自分がイケてる男になれて嬉しかったんだ。けど、彼女の言うとおりにしないと、すぐに機嫌が悪くなる。先週、ちょっと仕事でミスしてしまって。もちろん、ミスした俺が悪いとは思う。けど、そんな大ごとにならなかったのに、そこまで責めるかってぐらいネチネチ責められるんだよ。もうしんどいったら」
省吾は一気にまくし立てた後、眉を下げて傷ついたような表情で言う。
「こんなことになって初めて、沙耶のそばがどれだけ居心地よかったのか気づいたんだ。俺が間違ってた。本当にごめん」
省吾は勢いよく頭を下げた。
かつてはあんなに好きだった男性(ひと)だが、彼に悲しそうな声で訴えられても、沙耶の心はまったく動かなかった。それどころか、彼が身勝手な言い分を重ねるたびに、冷静になっていく。
「あなたが大変なのは気の毒だと思うけど、一方的に振ったのは省吾くんだよ。あのとき、電話で私に言った言葉を覚えてないの?」
「あれは本当に悪かった。思いあがってた。謝るよ。だから、俺とやり直してほしい」
「今さら謝られてもやり直すなんてできない。あの日、終わらせたのは省吾くんじゃない」
「なんでそんなに冷たいことを言うんだよ。沙耶はもっと優しい女だったじゃないか。沙耶、頼むよ」
省吾が顔の前で両手を合わせて拝むようにした。沙耶は首を左右に振る。

