辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 窓越しに匠真がふたりに気づいて、軽く右手を上げた。ほどなく、彼がドアを開けて店内に入ってくる。
「いらっしゃいませ!」
 涼花がいつもどおり明るい声で匠真を迎えた。
 四日ぶりに匠真に会えたことが嬉しくて、沙耶も自然と頬が緩む。
「いらっしゃいませ」
「もー、匠真くん、久しぶりじゃない! みんな寂しがってたよ~」
 涼花が笑いながら匠真に近づいた。
「俺も来たかったんだけど」
 匠真がチラリと沙耶に視線を投げ、沙耶ははにかんだ笑みを浮かべた。
「ほらほら、座って。どうせゆっくりできないんだろうから。沙耶ちゃん、おもてなし、よろしく」
 涼花が思わせぶりに言い、沙耶は頬を赤らめながら、キッチンに戻ってグラスに水を入れた。紙おしぼりと一緒に、カウンター席に着いた匠真の前に運んだ。沙耶が父の礼を言おうとするより早く、匠真が口を開く。
「日曜日、悪かった。せっかくの誕生日だったのに」
「大丈夫です。ぜんぜん気にしてませんから、謝らないでください」
「ほんとに?」
 匠真が沙耶の目を覗き込むようにした。
「はい。それより、父のこと、本当にありがとうございました」
「どういたしまして」
「実は、退院後、すぐにここに食べに来たんですよ」
 そのときのことを思い出して、沙耶は口元を緩めた。
「沙耶の手料理を食べに?」
「はい。授業参観みたいで緊張しましたけど、でも、父が病気になる前とまったく変わってなくて、安心しました」
「沙耶の笑顔が見られて俺も嬉しい」
 匠真が言葉どおり嬉しそうに微笑んだ。その優しげな笑みに、沙耶の胸が切なく締めつけられる。
(ああ、私、本当に匠真さんが好きなんだなぁ……)
 つい見とれていたら、匠真が不思議そうに首を傾げた。
「沙耶?」
「あっ」
 我に返った沙耶は、あわてていつものとおり、本日のランチプレートのメニューを匠真に伝える。