辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 来店客が途絶えて、残った三組の客がのんびりおしゃべりを楽しんでいる。
「ヒーコさん、ノリさん、ランチ休憩どうぞ」
 店内の様子が落ち着いたのを見て、涼花がふたりに声をかけた。ヒーコとノリはそれぞれ好きなランチを皿に盛って、二階に上がった。
「ごめんね、沙耶ちゃん、もうちょっと待ってね」
 ふたりを見送って涼花が沙耶に言った。
「大丈夫ですよ」
「沙耶ちゃんはなに食べる?」
「そうですねぇ、今日は〝焼き鮭定食〟にします」
 和食が好きな男性客を想定したメニューだったが、沙耶も魚の気分だった。
「涼花さんはどうしますか?」
「私は肉じゃが定食にしようかな~。ヒーコさんの肉じゃが、なんだか懐かしい味なんだよねぇ」
「それ私も思います。ほっこりしてておいしいですよね」
 涼花は沙耶のほうに体を寄せて小声になる。
「ね、匠真くんに聞いたんだけど、沙耶ちゃんと匠真くん、付き合ってるんだってね」
 涼花がにんまりと笑みを浮かべ、沙耶は目を見開いた。沙耶の驚いた様子を見て、涼花が胸の前で小さく片手を振る。
「あっ、もちろん私が強引に聞き出したんだよ! 匠真くんはそういうこと、ペラペラしゃべるタイプじゃないし」
「あ、はい」
「でも、すごいなー、沙耶ちゃん。あの匠真くんを射止めちゃうなんて」
 涼花のその言い方からして、匠真は涼花に、ふたりの関係が期間限定の偽の関係だとは明かさなかったようだ。
 涼花が話を続ける。
「〝あの〟って言っても沙耶ちゃんは知らないかもだけど、匠真くんってすごくモテるんだよー」
「あ、それは想像できます」
 沙耶の相槌に、涼花は「やっぱり?」と答えて続ける。
「高校時代からモテてたけど、日本に帰ってきてからは、適齢期だからかとくにすごくて。医師から看護師、受付職員まで、いろんな女性から言い寄られたり、教授や重役に娘を紹介されたり……。正直、よりどりみどりの状態だったのに、そういう女性には見向きもしないし。それで、二週間前、匠真くんが沙耶ちゃんを呼び出した後、どうして呼び出したのってメッセージで訊いたの。そのとき、沙耶ちゃんとのことを教えてもらったんだ。詮索するみたいにして、ごめんね」