「それは申し訳ないです。私たちは偽の――」
〝恋人同士なのに〟と言いかけた沙耶の唇に、匠真は人差し指を立てて当てた。
「『俺に任せてくれ』って言っただろう? 沙耶は素直に俺にもてなされること。ほら」
匠真は茶目っ気のある表情で言って、もう一度手を差し出した。沙耶はドキドキしながら手を重ねる。
「ありがとうございます」
偽恋人なのにこんなにしてもらっていいのだろうか。
そんな少しの葛藤も、匠真と一緒にいられる喜びにかき消されてしまう。
ショップを出たら、再びシースルーのエレベーターに乗った。外はいつの間にか日が落ちていて、海と空の境がわからなくなっていた。
エレベーターはぐんぐん上昇して二十五階に到着する。
「こっちだ」
匠真が案内してくれたのは、新鮮な素材を用いてヘルシーなイタリア料理を提供することで知られているレストランだった。海とは反対側、市内に面した店内は広く、貴族の館のダイニングルームのような雰囲気で、ライトブラウンの壁に風景画が飾られている。シェード付きのシャンデリアなど、アンティーク調の調度品が落ち着いた印象を醸し出していた。
案内係が沙耶と匠真を奥まった窓際の席に案内した。
(わあ、すごくきれい……)
座った席は夜景を楽しめるよう、テーブルが窓に対して菱形になるように配置されていて、すぐ目の前にきらびやかな都市の夜景が広がっている。
今日は匠真が車なので、ノンアルコールのスパークリングワインと、コース料理を頼んだ。
「誕生日おめでとう」
匠真が言ってグラスを持ち上げた。沙耶も同じようにグラスを持ってふたりで乾杯をする。
「ありがとうございます」
一口含んだドリンクは、泡が口の中で心地よくはじけ、マスカットのような爽やかな甘さが広がった。
目の前の夜景は、まさに宝石箱をひっくり返したような美しさで、沙耶は瞬きをするのも忘れて見とれた。
「こちら、前菜でございます」
コトリ、と音がしてテーブルに白い大皿が置かれ、沙耶はハッと我に返った。瞬きをして、匠真へと視線を移す。彼は夜景ではなく、沙耶を見ていた。そのまっすぐなまなざしに視線を奪われ、また瞬きを忘れそうになる。
「匠真さん、本当にありがとうございます。こんなに美しい夜景を見たのは初めてです」
「沙耶が喜んでくれたら俺も嬉しい」
あの展望台からの景色もきれいだったが、夜景はまた違う美しさがある。
〝恋人同士なのに〟と言いかけた沙耶の唇に、匠真は人差し指を立てて当てた。
「『俺に任せてくれ』って言っただろう? 沙耶は素直に俺にもてなされること。ほら」
匠真は茶目っ気のある表情で言って、もう一度手を差し出した。沙耶はドキドキしながら手を重ねる。
「ありがとうございます」
偽恋人なのにこんなにしてもらっていいのだろうか。
そんな少しの葛藤も、匠真と一緒にいられる喜びにかき消されてしまう。
ショップを出たら、再びシースルーのエレベーターに乗った。外はいつの間にか日が落ちていて、海と空の境がわからなくなっていた。
エレベーターはぐんぐん上昇して二十五階に到着する。
「こっちだ」
匠真が案内してくれたのは、新鮮な素材を用いてヘルシーなイタリア料理を提供することで知られているレストランだった。海とは反対側、市内に面した店内は広く、貴族の館のダイニングルームのような雰囲気で、ライトブラウンの壁に風景画が飾られている。シェード付きのシャンデリアなど、アンティーク調の調度品が落ち着いた印象を醸し出していた。
案内係が沙耶と匠真を奥まった窓際の席に案内した。
(わあ、すごくきれい……)
座った席は夜景を楽しめるよう、テーブルが窓に対して菱形になるように配置されていて、すぐ目の前にきらびやかな都市の夜景が広がっている。
今日は匠真が車なので、ノンアルコールのスパークリングワインと、コース料理を頼んだ。
「誕生日おめでとう」
匠真が言ってグラスを持ち上げた。沙耶も同じようにグラスを持ってふたりで乾杯をする。
「ありがとうございます」
一口含んだドリンクは、泡が口の中で心地よくはじけ、マスカットのような爽やかな甘さが広がった。
目の前の夜景は、まさに宝石箱をひっくり返したような美しさで、沙耶は瞬きをするのも忘れて見とれた。
「こちら、前菜でございます」
コトリ、と音がしてテーブルに白い大皿が置かれ、沙耶はハッと我に返った。瞬きをして、匠真へと視線を移す。彼は夜景ではなく、沙耶を見ていた。そのまっすぐなまなざしに視線を奪われ、また瞬きを忘れそうになる。
「匠真さん、本当にありがとうございます。こんなに美しい夜景を見たのは初めてです」
「沙耶が喜んでくれたら俺も嬉しい」
あの展望台からの景色もきれいだったが、夜景はまた違う美しさがある。

