辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

「今日はこんなステキなところに連れてきてくれて嬉しかったです。思い出に残る誕生日になりました。ありがとうございました」
 匠真は少し眉を上げて沙耶を見た。
「もう帰るつもり?」
「え?」
「そんなに早く君を返す気はないよ」
 匠真は助手席の肩の部分に左肘をついて顎を支え、沙耶の顔を覗き込んだ。沙耶のすぐ目の前で、彼がふっと口の端を上げる。不敵にも見えるその表情に、沙耶の心臓がドキンと跳ねた。
「どういう意味、ですか?」
「もっときれいな景色を見せてあげる」
 匠真は右手で沙耶の頬に触れて、くすぐるように頬を撫でた。
「た、匠真さん」
 匠真との距離が近すぎて、沙耶はあえぐように声を発した。
「ん?」
 わずかに首を傾げたその表情も、色っぽい。
「匠真さんって、よく私の頬を触りますよね……?」
「嫌だった?」
 匠真は沙耶の頬を撫で下ろして顎をつまんだ。
「い、嫌ではないですけど、でも……」
 電話で省吾に言われた『頬なんかぶくぶくで、どれだけみっともないか』という言葉。それを思い出して、沙耶はギュッと下唇を噛んだ。
「そんなに噛んだらダメだ。傷ができてしまう」
 匠真が親指で沙耶の唇をなぞり、沙耶は驚いて小さく口を開けた。
「沙耶の頬、いつもかわいいなって思ってた」
「へっ!?」
 思いもよらぬことを言われて、沙耶は目を見開いた。
「本当だよ。すべすべで柔らかい」
「ほ、ほんとにそう思いますか?」
「ああ。俺の頬と比べてみるとわかる」
 匠真が沙耶の右手を取って、彼の頬にピタリと当てた。温かくて張りのある肌に触れ、沙耶の心臓が早鐘を打つ。
「た、匠真さん」
「あまり触り心地、よくないだろう?」
「そ、そんなこと、ないです……」