辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 匠真の負担にならず、父にも納得してもらえそうなプレゼント。
 なにがいいだろうかと必死で考えをまとめようとするが、匠真に至近距離で見つめられて、頭がうまく働かない。
『沙耶のお願いならなんでも聞くよ』
 おまけに甘さを含んだような声で言われて、息が止まりそうになる。
『じゃ、じゃあ、きれいな景色が見たいですっ』
 思いつくまま言葉を発したら、目の前で匠真が眉を寄せた。
『景色?』
『はい。景色のいいところに連れていってほしいです。それが私のお願いです』
『ほかには?』
『いえ、もうそれでじゅうぶんです』
 沙耶は胸の前で両手を振った。匠真は顎に右手を当てる。
『なるほど、それじゃ、とびきりのデートにしないといけないな』
 匠真はなにか企んでいるような表情でニッと笑った。
『あの、無理はしないでくださいね』
『無理なんかしてない。沙耶のためになにかを考えるのは楽しいんだ』
『そ、そうですか?』
『ああ。だから、すべて俺に任せてくれるかな?』
『匠真さんがそれでよければ……』
『期待しててくれ。また連絡する』
 彼は右手を伸ばして沙耶の頬を軽く撫でた。頬に触れる彼の指先を感じながら、沙耶はうなずく。
『は、はい』
 匠真はもう一度微笑むと、片手を上げて歩きだした。
 思いもよらない展開に、勝手に胸が高鳴る。
(私たちは契約関係! あと二カ月半で終わる偽の恋人! 本物じゃないんだから勘違いしちゃダメ!)
 何度も自分に言い聞かせてみたが、どうしても鼓動は落ち着かなかった。

 そして、その結果がこの膝枕である。
 一時間ほど前、匠真は黒の高級外国車で、沙耶がひとり暮らしをしているマンションまで迎えに来てくれた。
(でも、本当は家でゆっくりしたかったんじゃないのかな)
 風がそよそよと吹いて、彼の少し長めの髪が額の上でふわりと揺れた。もう十一月に入ったが、午後の日差しが温かいうえに匠真の体温を感じて、肌寒さはまったくない。
(匠真さん……)