辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 親しげに話しかける匠真と娘を父は不思議そうに見ていたが、会話が途切れたタイミングで言葉を発した。
「先生は沙耶とお知り合いなんですか?」
 匠真が、言ってもいい? と問うように沙耶を見た。沙耶が頬を赤くしてうなずき、匠真は父に顔を向ける。
「実は、沙耶さんとお付き合いさせていただいています」
「えっ、本当に?」
 父が沙耶を見たので、沙耶ははにかんだ顔でうなずいた。父は美咲に「ついさっき沙耶から新しい恋人ができたと聞いたばかりなんだ」と説明して、匠真に視線を戻した。
「沙耶の恋人がまさか小早川先生だったとは……。沙耶は近くのカフェで働いていると言ってましたが、もしかしてそれが縁で?」
「はい、そうです」
「なるほど……。縁というものは予期せぬときに結ばれるものですねぇ」
 父はしみじみとした口調で言って美咲を見た。彼女と出会ったときのことを思い出しているのかもしれない。
「娘をどうぞよろしくお願いします」
 父はベッドの上で匠真にお辞儀をした。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
 匠真も同じように頭を下げた。美咲が驚きと喜びの混じった声を出す。
「でも、ぜんぜん気づきませんでした」
「だって、やっぱり照れくさいじゃない」
 沙耶はごまかすように笑って、それ以上の追及を避けるように言う。
「あまり先生を引き留めちゃ悪いから」
「あ、そうよね」
 沙耶と美咲はベッドの脇によけて、匠真の言葉に耳を傾ける。
「経過は順調ですし、このままいけば予定どおり退院できそうですね」
「ありがとうございます」
 そう言う父の表情は、いつも以上に明るい気がする。
 なんの後遺症もなく匠真と話す父の様子を見ているうちに、沙耶は自分の心が軽くなっていることに気づいた。
「お父さんを病院に連れてきてくれて、本当にありがとう」
 沙耶は美咲に小声で礼を言った。
「なあに、急に改まって」
 美咲が照れた声で答えたとき、父の声が聞こえてくる。
「ふたりとも、先生が帰られるよ」
 沙耶が顔を向けたら、匠真と目が合った。