辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

「三カ月でお願いします。そのぐらいあれば、父が退院してすっかり落ち着いているころだと思いますから……」
「三カ月か」
 匠真がつぶやくように言った。
「あ、三カ月じゃ、お見合いを断るのに短すぎますか?」
 沙耶は心配して匠真を見つめた。目が合って、匠真がニッと笑う。
「いや、大丈夫だ」
「本当ですか?」
「ああ、そのぐらいあれば十分だ」
 そう答えた彼の表情は、どこか不敵にも見えた。沙耶は一度瞬きをして口を開く。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
 匠真が右手を差し出し、沙耶はおずおずと手を伸ばして彼の手をそっと握った。契約成立、とでもいうような握手に、沙耶の胸は切なく締めつけられた。

 翌日の月曜日の午後二時過ぎ。
 沙耶はまかないのランチを食べた後、父の見舞いのため伊吹会病院に向かっていた。
 昨日はディナーの後、匠真がタクシーで家まで送ってくれたうえに、『心配だから』と沙耶のマンションの部屋の前まで来てくれた。
『今日は本当に楽しかったです』
 沙耶がドアの前で礼を言うと、匠真は頬を緩めた。
『俺もだよ』
『送ってくださってありがとうございました。それじゃ、小早川さん、おやすみなさい』
 沙耶が会釈をしたとき、匠真が沙耶の顔の横に軽く左手をついた。
『沙耶』
 甘さを含んだ声で急に呼び捨てにされて、心臓が跳ねた。
『こ、小早川さん?』
『名前で呼んで』
 彼が唇を耳元に寄せてささやき、沙耶の頬が熱くなる。
『な、名前ですか?』
『ああ。俺の名前、知らない?』
『し、知ってます、けど』
 沙耶はドキドキしながら、上目で匠真を見た。すぐそばに、少し目を伏せた匠真の顔がある。その色気のある表情にあてられそうになりながら、沙耶はどうにか口を動かした。
『た、たく、ま、さん』
『俺は君の恋人だよ』