辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 寺井は説明しながら、色味の違う下地クリームを混ぜて沙耶の肌にのばした。同じようにリキッドファンデーションを選んで、肌を艶やかに整える。さらにそこにパウダーを重ねたが、重くならずとてもナチュラルな仕上がりだ。
(私たちが料理をするとき、いろんな道具を使うのと同じなのかも)
 そんなことを考えている間にも、寺井はペンシルとパウダーを使って、沙耶の眉を上品に描いていく。アイシャドウはパール入りで、二重部分に塗られた引き締めカラーのブラウンとマスカラが、目元をぐっと印象的にしてくれた。ナチュラルピンクのチークと瑞々しく赤みのあるリップのおかげで、清楚な中にも華やかさのある仕上がりになった。
(うわぁ、こんなにきれいなれるなんて……)
 沙耶が鏡に見入っている間に、寺井はヘアアイロンを使って、沙耶の髪全体を緩やかにカールさせた。両サイドを緩く編み込んで、ハーフアップにアレンジする。
 肩の辺りで髪が軽やかに動くおかげで、頬の丸みがぜんぜん気にならなくなっていた。
「お疲れさまでございました」
 寺井がケープを外し、沙耶は感動の面持ちで礼の言葉を述べる。
「こんなにステキに仕上げてくださって、本当にありがとうございます。とても嬉しいです」
 沙耶の言葉に、寺井はにこやかに微笑んだ。
「お気に召していただけて嬉しいです。代田さまは肌がとてもおきれいで、メイクのし甲斐がありました。きっと栄養バランスのいいお食事をなさっているんでしょうね」
 お世辞かもしれないと思いつつも、プロにそんなふうに言われて、沙耶は嬉しくなった。
「ありがとうございます」
「では、待合室へご案内しますね」
 寺井に促されて、沙耶は個室を出た。受付横の待合室でソファに座っていた匠真が、沙耶に気づいて立ち上がった。
(小早川さんに……ちょっとでもきれいだって思ってもらえたら嬉しいな)
「お待たせしました」
 沙耶が緊張しながら近づくと、匠真は目元を緩めて、沙耶の耳元に唇を寄せた。
「いつもはかわいいけど、今日は大人っぽくてきれいだ」
 思っていた以上の誉め言葉に、沙耶は目を見開いた。
「あ、ありがとうございます」
 どうにかそれだけ答えたら、匠真が自然な仕草で沙耶の右手を握った。大きな手に包み込まれて、沙耶はドキドキしながら彼を見る。
 匠真がいいかな? と問うように沙耶を見た。
(エスコートしてくれる……ってことなのかな)
 彼の温かな手を、沙耶はそっと握り返した。
「行こうか」
「はい」