辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 受付の女性と入れ替わるようにして、ベージュの制服を着た三十歳くらいの女性スタッフが入ってきた。さすがラグジュアリーホテルのサロンのスタッフらしく、立ち居振る舞いが洗練されている。
「本日、代田さまを担当させていただきます寺井(てらい)と申します」
 スタッフがにこやかに微笑みかけた。沙耶は緊張しながらも、小さくお辞儀をする。
「は、はい、よろしくお願いします」
「どうぞリラックスなさってくださいね」
 そうは言われても、こういうサロンに来たのは初めてで、どんな施術が行われるのか、期待と緊張でドキドキする。
「小早川さまより、代田さまに似合うヘアメイクを、とご依頼いただいております。お任せいただいてもよろしいですか?」
「はい」
 寺井は無駄のない動きで沙耶に白いケープをかけた。続いて沙耶の前髪と横の髪をクリップで止める。
「背もたれを倒しますね」
 寺井の声がして、ゆっくりと椅子が倒された。
 そのままじっとしていたら、寺井はクレンジング剤を手にとって、沙耶のメイクを落としはじめた。ほぐしたり引き上げたりするような動きでマッサージをされて、気持ちがいい。肌がほんのりと温かくなると同時に緊張が解けていき、沙耶は肩から力を抜いて深く息を吐いた。
 メイクがなじんだら、寺井はコットンでクレンジング剤を拭き取って、蒸しタオルで沙耶の肌を丁寧に拭いた。それから、化粧水や美容液、乳液などをぜいたくに使って肌を整えた後、背もたれを元に戻す。
 鏡に映った自分の顔を見て、沙耶は思わず目を見開いた。
(うわぁ……肌がすごくつやつやしてる)
 普段よりも瑞々しくなっただけでなく、マッサージのおかげか小顔になったようにも感じる。
「では、メイクに入らせていただきますね」
 鏡に映る寺井が、壁際にあったワゴンを引き寄せた。一番上にはメイクボックスが置かれていて、太さや形の違うさまざまなブラシ、色味が微妙に異なるファンデーション、色や質感の違うアイシャドウや口紅などがたくさん入っていた。その下のカゴにはホットカーラーやブラシ、スプレーなどが収められている。
「すごくたくさん道具があるんですね」
 沙耶が思わずつぶやくと、鏡の中の寺井が微笑んだ。
「そうですね。この中から、代田さまの肌に合うお色を選んでいきます。くすみを消して明るく見えるように、今回はこの二色を混ぜて使います」