辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

(あ、おいしい)
 ヒーコ特製の厚焼き卵はふわふわでボリュームがある。頬を緩めてふた口目をかじろうとしたとき、前の席で匠真がふと口を開いた。
「次の日曜日、一緒にディナーに行かないか?」
 沙耶はサンドイッチを持つ手を下ろして瞬きをした。
「えっと、私とですか?」
「ああ」
 沙耶はキッチンを見てから匠真に視線を戻す。
「じゃあ、涼花さんに訊いたほうがいいですよね?」
 沙耶の言葉に匠真は怪訝そうな表情をした。
「もしかして涼花さんと約束があった?」
「いえ、そうじゃなくて、小早川さんは涼花さんとお付き合いされてるんでしょう?」
 沙耶の言葉を聞いて、匠真は目を見開いた。
「まさか」
「えっ、違うんですか?」
「そんなに驚くってことは、俺と彼女が付き合ってるって、ずっと思ってたってこと?」
 匠真の声に不満がにじんでいて、沙耶はあわてて答える。
「ご、ごめんなさい。おふたりはとても気さくにお話ししてたので……」
「俺と彼女は高校のときの同級生なんだ。高二のとき同じクラスだったんだよ」
「そうだったんですか」
 ふたりがただの客とオーナーシェフの関係に見えなかったのは、そういう理由だったのだ。
 沙耶の心がふっと軽くなった。
 匠真は首を傾げて沙耶の顔を覗き込むようにする。
「そうだとわかったら、俺とのディナーも問題ないね?」
「それは……でも……私と行ってもつまらないかと……」
「そんなことないよ。沙耶さんはとてもおいしそうに料理を食べるだろう? 君と一緒だと楽しく食事ができるから、俺の気分転換に付き合ってほしいんだ」
 その言葉を聞いて、沙耶の頬が瞬時にほころんだ。
 匠真の言葉が嬉しかったし、なにより父の手術をしてくれた匠真に望まれて恩返しができるなんて。
 その気持ちのまま、沙耶は前のめりになった。
「わかりました。ご一緒します!」
 意気込んだ沙耶の姿を見て、匠真は一度瞬きをした。
「急に乗り気になったね」
「はい! 小早川さんのお役に立てるのは嬉しいですから」