辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

「うん、私のことは気にしないでね」
 どうにか笑みを作って答えたとき、真緒が言葉を挟んだ。
「お父さんってば! 私たちだって社会人一年目だけど、しっかりがんばってるつもりだよ!」
「ああ、そうだね、もちろんわかってるよ」
 父が目を細めて言った。美咲が双子に向かって尋ねる。
「そうは言っても、あなたたちふたりとも、二日も会社をお休みして大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。せっかくもらった有給だもん」
 理緒の言葉に真緒が続ける。
「そうそう、こういうときに使わないと」
「それでも、入社一年目でしょう? 急にお休みいただいたんだから、お礼のお菓子でも持っていったほうがいいんじゃない?」
 美咲の心配声に、真緒があっさり答える。
「そんなことしたら逆に気を遣わせちゃうから必要ないって」
「お母さんは心配性だよね」
 理緒が呆れたように言ったが、父は笑みを含んだ声を出す。
「その心配性のおかげで、父さんの病気にいち早く気づいてくれたんだ。こうしてすぐに病院に来られたのは母さんのおかげなんだぞ」
「あっ、そうか。じゃあ、お父さんがお母さんにお礼しなきゃね」
 理緒の言葉に、「どうしてそうなるの」と美咲があわてる。
「構わないよ。元気になったら一緒に食事に行こう」
 父の言葉に、真緒がニヤニヤ笑いを浮かべる。
「えーっ、それってデートのお誘い?」
「もう、親をからかうんじゃありません!」
 美咲が頬を赤くして言った。父と双子が笑い声を上げる。
 子どもの頃から何度も見てきた、父と新しい母と妹たちの姿。
 私はみんなと離れて暮らしているんだから仕方ない。そう思うのに、やっぱり寂しさを覚えた。
「えっと、お父さん、なにか必要なものがあるなら言って。買ってくるよ?」
 沙耶が声をかけると、父は笑みの残る顔を沙耶に向けた。
「大丈夫だよ。母さんたちがいろいろ用意してくれたから」
「そうなんだ」
「当たり前でしょ。私たちは昨日から来てるんだよ」
 真緒が言葉を挟んだ。
「そっか、そうだよね、ありがとう」
 沙耶は真緒にそう返してから、父に視線を戻す。