辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 新しい年を迎えて、実家のドアには立派なしめ縄が飾られている。
 沙耶が実家を訪ねるのは去年のゴールデンウィーク以来、およそ八カ月ぶりだ。
 母が生きていた頃は、父と三人で市内のマンションで暮らしていたが、父は再婚後、郊外にこの二階建ての家を買った。沙耶がここで暮らしたのは四年ほどなので、自分の生まれ育った家という感覚はあまりない。
(匠真さんと一緒にコインパーキングまで行ったらよかったな)
 匠真が完全休日の今日、ふたりで初詣に行った後、沙耶の実家に新年の挨拶に来たのだが、 近くのコインパーキングが満車だった。そのため、匠真は沙耶を実家の前で降ろして、少し離れた駐車場まで駐めに行ってくれている。
(真緒ちゃんと理緒ちゃんも来るって聞いたけど、もう来てるのかな)
 三週間ほど前、健康診断のために伊吹会病院に来ているという真緒から、匠真が美人の女性医師と親しげにしているのを見た、というメッセージが届いた。【「匠真先生」とか呼んじゃって、すっごく親しげにしてる。美男美女でお似合い】と書かれていたが、その誤解を解けたらいいのに、と思う。
 匠真によると、優真と一緒に働いていた医師や看護師が『小早川院長』と区別するために、優真を『優真先生』と呼んでいたのだそうだ。それと同じ理由で、匠真も内部では『匠真先生』と呼ばれている。
(コインパーキング、遠いのかな)
 門扉の前に立って手持ち無沙汰で白壁の家を見上げたとき、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あーあ、やっぱりね」
 振り返ったら、真緒が立っていた。彼女も来たばかりらしく、キャメル色のロングコートにベージュのパンツとブーツという格好で立っていた。
「真緒ちゃん、あけましておめでとう」
 真緒は小ばかにしたような表情を浮かべる。
「おめでとう、でいいの? お姉ちゃんがカレシと挨拶に来るってお父さんから聞いてたけど、結局振られてひとりで来たんでしょ」
「真緒ちゃん、あのね」
 説明しようとする沙耶の前を、真緒は素通りした。沙耶に背を向けて門扉を開けながら、言葉を続ける。