辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

「沙耶ちゃん、いろいろありがとう。よいお年を迎えてね」
「ありがとうございます。みなさんもどうぞよいお年をお迎えください」
 ぺこりとお辞儀をする沙耶の隣で匠真が会釈をした。「あらあら、ふたりはもしかして……?」というヒーコの好奇心の混じった声を聞きながら、ふたりで外に出る。近くのコインパーキングに匠真の車が駐まっていて、彼が助手席のドアを開けてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 沙耶は礼を言って助手席に座った。シートベルトを締めている間に、匠真が運転席に乗り込む。
「少しドライブしようか」
「はい」
 匠真の声がいつもより硬くて、今まで感じていた不安が大きくなる。
 彼がアクセルを踏み、車がゆっくりと走りだした。まばらな街灯の中、山のほうに向かう。誕生日プレゼントとして『きれいな景色が見たい』と言ったとき、紅葉を見に連れていってくれたルートだ。
「元気にしてた?」
 匠真がハンドルを切り、ヘッドライトが暗い山道を切り取るように照らす。
「はい。匠真さんはどうでしたか?」
「あまり元気じゃなかった」
「お忙しかったんですか?」
 沙耶は心配して運転席を見た。匠真の口元がかすかに歪む。
「そういうわけじゃない」
 じゃあ、どうしたんだろう、と思ったが、それきり匠真は黙って前を向いている。
 わけもなく緊張して、沙耶は膝の上で両手をギュッと握りしめた。
 やがて車は左に曲がり、展望台の駐車場に入った。さすがに年末の夜だからか、ほかに車は一台も駐まっていない。
 匠真はゆっくり車を進めて、展望台の真ん中辺りで駐めた。そこは一番見晴らしがよく、フロントガラスの向こうにきらびやかな夜景が広がっている。
「わあ……」
 沙耶は思わず感嘆の声をこぼした。
「きれいですね」
「ああ」
 けれど、彼がここに連れてきてくれたのは、話をするためのはずだ。
 チラリと運転席を見たら、匠真は沙耶を見ていた。
「沙耶」
「は、はい」