辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

「私のことが心配で見に来たのかしら。わざわざ来られると、緊張しちゃうわねぇ。子どもの頃にさんざん食べたオムライスなのに、また食べたいのかしら」
「子どもの頃食べたからこそ、食べたいのかもしれませんよ」
「まあ。ふふふ」
 アキコは頬をほころばせて、すぐに調理に取りかかった。
 彼女特製のケチャップライスは、しっかり炒めて水分を飛ばす。別のフライパンにバターを溶かして、よく溶いた卵を流し入れ、手早く混ぜて半熟の状態にする。そこにケチャップライスを形よくのせて、箸でくるりと巻いた。
 見事な手際だ。
「運ぶのも私がやりますね」
 アキコは皿に盛ったオムライスをスープと一緒にトレイにのせて、娘の席に近づいた。
「まったく、母の職場まで見に来るなんて」
 アキコの不満声に、女性は顔を上げて同じような口調で答える。
「だって、心配するじゃない。お父さんが亡くなってから、この半年ずーっとふさぎ込んでたお母さんが、急に働きに行く、とか言い出すんだから」
「そんな心配は無用よ。ここに来るのは私の生きがいなの。あの人が亡くなって、ひとりぼっちになったと思ってたけど、ここではまだ私を必要としてくれる人たちに会えるの。すごく嬉しいんだから。オーナーの涼花ちゃんに雇ってもらえたことも感謝してるし、いつもお客さまのことを考えて一生懸命なシロちゃんを見ると、元気をもらえるの」
「お母さん……」
 アキコの娘が目を潤ませた。アキコはポンポンと娘の背中を叩く。
「それより、ちゃんと味わって食べてよ。これはあなたたちに作っていたオムライスをさらにレベルアップさせたものなんだからね」
 アキコのおどけた口調を聞いて、娘は目元を拭って笑みを浮かべた。
 ふたりの温かな様子とアキコの言葉に、沙耶の胸の奥から熱い気持ちが湧き上がってくる。
(私だけじゃ……ないんだ)
 ここは自分のできることを自分らしくできる場所。
 そんなプラチナで働けていることが誇らしい。
(これが私の生き方。ここが私の居場所)
 背筋が伸び、沙耶は自然と胸を張った。

 その翌週、クリスマスも終わって年内最後の営業日を終えた土曜日。閉店後のプラチナで忘年会が開かれた。