辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 スマホの時刻表示を見たら、二時十分だった。匠真が普段来るのは、もう少し早い時間だ。
『ああ。悪いけど、しばらく行けそうにない』
「わかりました。ご連絡ありがとうございます。予定が読みにくいでしょうし、これからはわざわざ連絡してくださらなくても大丈夫ですよ」
『沙耶、俺は――』
 匠真がなにか言いかけたとき、電話の向こうで小さく『匠真先生』と呼ぶ女性の声がした。
『すまない、沙耶。また改めて連絡するよ』
「はい、わかりました」
 沙耶が答えた後、通話が切れた。
(匠真さん、病院で『匠真先生』って呼ばれてたっけ?)
 父や母も『小早川先生』と呼んでいたはずだ。
 少し気になりながらも、沙耶はスマホをテーブルにおいてオムライスを食べはじめた。アキコの作ったオムライスは、玉ねぎとベーコンが入ったほんのり甘めのケチャップライスを、ふんわり焼いた卵でくるんだものだ。子どもの頃、祖母が作ってくれたような懐かしい味がする。
(おいしい)
 食べ終えてスプーンを置いたとき、スマホが小さく振動して、メッセージの受信を知らせた。視線を向けたら、真緒からメッセージが届いている。
(えっ、どうしたんだろう)
 真緒と最後にメッセージをやり取りしたのは、一年以上前、真緒の就職が決まったと父から聞いたときだ。お祝いのメッセージを送ったら、〝ありがとう〟というスタンプが返ってきた。
 そんな妹からの連絡に、父や母になにかあったのかと急いでメッセージを開く。
【お姉ちゃん、お母さんから聞いたけど、小早川先生と付き合ってるって本当?】
 いきなりそんな文字が飛び込んできて、思わず声が出た。
「えっ!?」
 どう返信しようか迷っている間に、次のメッセージが届く。
【今、健康診断で病院に来てるんだけど、小早川先生がすっごい美人の先生と一緒にいるよ。「匠真先生」とか呼んじゃって、すっごく親しげにしてる。美男美女でお似合い】
 真緒が言っているのは、さっき匠真の名前を呼んだ女性のことだろうか。
【仕事中だからだと思うよ】
 沙耶がそう返したら、少しして真緒から返信があった。
【そうかな。お姉ちゃん、遊ばれてるんじゃない? だって、どう考えても、お姉ちゃんよりあの美人のお医者さんのほうが、次期院長の恋人としてふさわしいもん】
 妹からの返信を読んで、先週、静枝に言われた言葉が耳に蘇る。