辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 熱情のにじむ声でささやかれて、沙耶は頬を赤くしながら答える。
「私も離れたくないです。でも、日本に帰ってきたばかりで、匠真さん、疲れてるでしょう? 今日はご自宅の広いベッドでのんびりくつろいだほうが――」
 匠真は沙耶の言葉を遮るように唇を押しつけた。リップ音を立てて、彼の唇が離れる。
「言っただろ? 俺は沙耶の隣が一番安らげるんだって」
「匠真さん……」
「それとも、沙耶は俺がいたら安らげない?」
 匠真が斜めに沙耶を見た。どこかすねたようなその仕草に、沙耶の胸がキュンとなる。
「そんなことないです。じゃあ、今から夕食を作りますから、一緒に食べましょう」
「ありがとう」
 車を降りたら、すぐに彼が沙耶の手を握った。温かくて大きな手に包み込まれて、その手を離したくない、と強く思う。
 エレベーターに乗って三階に上がり、部屋に入ってそれぞれのコートをハンガーラックに掛けた。
「冷凍してるパスタソースがあるんですけど、ミートソースとトマトソース、どっちがいいですか?」
「ミートソースがいいな。でも、その前に沙耶を食べたい」
 匠真が顔を傾けて沙耶を見つめ、沙耶はそっと目を閉じた。唇に彼の柔らかな唇が重なって、心が、体が熱くなる。彼の唇が触れるたびに、彼への想いが強くなる。
(匠真さんを忘れるなんて……絶対にできない)
 本当はずっとそう思っていたはずなのに、今さら気づいた自分がおかしくて、ふと口元が緩んだ。
「沙耶、笑ってるの?」
 匠真はそう言いながらも、沙耶の唇をついばむ。
「ん、匠真さんが……そばにいてくれることが嬉しくて」
「俺もだよ」
 匠真は沙耶の頬を両手で包み込み、彼女の目を覗き込んだ。
「いつも俺ばかり沙耶を求めてる気がしてたんだ」
「そんなことないです」
 沙耶はそっと手を伸ばして匠真の首に腕を回した。
「匠真さん、大好きです」
 沙耶は背伸びをして、彼の唇にそっと唇を重ねた。愛おしくてたまらないその唇を、ゆっくりと味わう。
「沙耶、なにかあった?」
 匠真が唇を動かし、その彼の唇を沙耶は食む。
「ん……なんにも」