辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

 そうしていつもの笑顔で手を振って、ふたりに背を向けた。足取りもしっかりしていて、さっきまで泣いていたのが嘘みたいだ。
 沙耶が見送っていたら、視線を感じたのか涼花が振り返った。
「ふたりとも早く帰りなよ~」
 そう言って大きく手を振った後、またスタスタと歩いていく。
 涼花が角を曲がり、匠真が促すように沙耶の手を握った。
「俺たちも帰ろうか」
「あ、はい」
 沙耶は匠真の手を握り返しながら彼を見上げた。
「あの、遅くなってしまったけど、おかえりなさい」
 沙耶の今さらな挨拶に、匠真が口元に笑みを浮かべた。
「ただいま」
 その温かな表情に、沙耶は胸が熱くなる。
(やっぱり匠真さんが好き。どうしたら匠真さんとずっと一緒にいられるんだろう。山根さんって女性を傷つけたくはないけど、私も匠真さんを諦めたくない……)
 目を伏せたら、匠真が怪訝そうに沙耶の顔を覗き込んだ。
「沙耶?」
 沙耶はすぐに目を細めて笑みを作る。
「はい、帰りましょう」
 表情を見られないように、沙耶は彼をぐいぐい引っ張って歩きだした。

 それから匠真の車で、沙耶のマンションまで送ってもらった。
 来客用駐車場に停まった車の中で、沙耶はシートベルトを外し、送ってくれた礼を言おうと運転席を見たら――。
 同じくシートベルトを外した匠真に抱き寄せられて、最初の言葉を発する間もなく、唇をキスでふさがれた。
「んっ……」
「ずっとこうしたかった」
 息継ぎの合間にささやいて、匠真は沙耶の後頭部に手を添えた。唇を貪られて、沙耶は匠真のカーディガンの袖を掴む。
「匠真、さん……」
 会えなかった時間を埋めるように、熱く深く口づけられて、彼への想いに溺れるようにキスを返す。
「……は……あ」
 息が上がった頃、唇が離れて、沙耶は熱い息を吐いた。匠真が額をコツンと合わせる。
「沙耶、このまま離れたくない」